それは智希にとって簡単なこと。
あの人の負担を少しでも軽くしたい。
一分一秒でもあの人の近くにいたい。
正直、バスケで生きていくつもりは全くないし大学でも続けるか不明だ。
本当は部活だってしたくない。
朝練や試合前になると土日返上で部活がある。
合宿だってある。
極度の負けず嫌いでやると決めたからには続けたいし、何より試合の日は必ず応援に来てくれる有志に申し訳ない。
全ては父、有志のため。
智希の世界は有志を中心に回っているのだ。
「あ、智。そういやこのあと空いてる?」
「わり、親父と飯行くんだわ」
「また親父かよ」
「なに、泉水ってファザコンなの」
おもしろそうな話題を見つけ声をかけてきたのは、同じクラスの藤屋 俊(ふじやしゅん)。
彼も同じく野球部の特待生で、坊主に切れ長の目が印象的な少し軽い感じの男。
「まじ、重度」
「別に普通だって」
智希と藤屋はそれほど仲良くはないが、真藤がこのクラスのムードメーカーみたいな役割のため真藤と話していると必然的に人が集まってくる。
まだ来ない担任に段々苛立ちを覚えた生徒達は自由に動きだし、好き勝手にやりたいことをやり始めた。
その一人である藤屋も、ポテトチップスを頬張りながら座る二人を見下ろす。
「普通じゃないだろ。この前彼女にフラれた理由父親じゃん」
「あー……」
ふと思い出し宙に目を泳がせながら言葉を濁す。
肯定だ。
「なにそれ超気になる!」
お調子者な藤屋はお菓子の袋をガサっと掴みながらしゃがみ込み、今度は二人を交互に見上げた。
教えて教えてと、犬の様に目を開かせ好奇心いっぱいに見つめてくる。
智希はわざと大きな溜息をつくと、机に肘をついて目を閉じた。
「こいつさ、彼女の誕生日より父親の約束取ったんだ」
「約束?」
「……久しぶりに早く仕事終わるから……飯食べようって…」
悪いと感じているのか、顔はうつむき声も小さい。
目はまだ閉じたままだ。
「ドタキャン?」
「うん……」
「さいてー!」
「だろー」
「うっせ。腹減ってたんだよ」
子どもじみた理由を言いながら壁に顔を向けると、まだケラケラ笑う二人に若干の苛立ちを覚えた。