「おっす」
「はよ」
始業式も終わり、新2年生となった智希は教室へ向かい黒板に貼られている座席表の場所へ向かった。
座った早々大きなアクビをしていると、親しい声が聞こえる。
「俺等にはクラス替えとか関係ないからいまいち新クラスって言われてもパッとしねーよな」
「だな」
智希の前の席に座り低い声で笑う短髪のスポーツマンは、智希と1番仲の良い友達、真藤渉(しんどうわたる)だ。
きりっとした眉とややつり目気味な顔立ちは大人っぽさを感じさせる。
智希はバスケットボール部の特待生だ。
私立秋波高等学校はスポーツ推薦と普通科があり、智希はスポーツ推薦でこの高校に入った。
マンモス校ではないので、特待生のクラスは2クラスしかなく、理系と文系に分かれる。
そのため特待生が普通科に変更しない限り3年間ずっと同じメンバーだ。
担任も3年間同じで教室が変わるぐらいなので、智希のクラスはぎこちない空気もないまままるで昨日もこの教室で勉強していた様に和やかだ。
「智んとこ、今日部活ある?」
「ミーティングだけ。真藤は」
「俺がっつりあるんだよー」
大袈裟なため息をつき智希の机にうなだれる真藤。
苦笑いをしながらつむじを向ける真藤の肩をポンポンとたたいた。
「まあ野球部は期待されてるからな」
「そういうおまえだって期待されてんだろ、一年のくせにレギュラーだし」
「別に、期待なんかされてねーよ」
智希は自己肯定力がとても低い。
自分のことを凄いと思ったことは一度もなかった。
特待生としてこの高校に入ったのも、家から近くて学費が免除されるからだ。
他にも何校か誘いがあったが、全て寮生活や往復2時間以上かかるため断った。
いくら特待生制度があるといってもまだまだ無名校。
智希を誘った監督が逆に何故うちなのかと疑問に思う。