ガタンと丸椅子を倒し寝転ぶ有志の肩を羽交い締めにすると、見上げる顔は怯えではなく憂いを帯びていた。
「だって俺達は血が繋がってるんだ」
虚ろだった有志の目は、しっかりと智希を捕らえていた。
真剣に、真剣に想っているから。
偽る事の出来ない真実。
「血って…なんだよ」
「智希……」
見下ろす智希の顔は有志と正反対で曇っている。
細い肩を掴みながら、この数日で痩せて弱った体を優しく抱きしめた。
「血なんか…血なんか…」
「……智希」
有志の頬を触り撫で続ける。
ゆっくり起き上がり有志を見下ろした。
「俺達に血なんか流れてないよ」
「えっ」
きょとん、と有志を見上げるとその顔に笑みをこぼし瞼にキスを落とした。
「父さんは実の子供を、俺は実の父親を。本気で好きになった時点で人間じゃなくなったんだ」
「智希」
「人間じゃない俺達に、血なんか流れてるわけないじゃん」
喜びか、不安か。
有志の瞼から涙が流れる。
智希は再び微笑みながら有志の涙を人差し指で拭うと、頭を撫でてあげる。
やはり、どちらが父親でどちらが子供かわからない。
「水だよ」
「水?」
「うん。俺達にはね、朱い水が流れてるんだ」
不安そうに見上げる有志にまた優しく微笑みながら手を握ると、ゆっくり瞼を閉じた。
そしてゆっくり、開ける。
「俺達に流れてるのは朱い水だから、血なんかどうでもいいんだよ」
「でもっ」
大人になるとたくさんの事が恐怖になる。
失うことの恐怖感、終わりがあるということの絶望感。
世間という、見えない壁。