第3章
03

ガタンと丸椅子を倒し寝転ぶ有志の肩を羽交い締めにすると、見上げる顔は怯えではなく憂いを帯びていた。


「だって俺達は血が繋がってるんだ」


虚ろだった有志の目は、しっかりと智希を捕らえていた。


真剣に、真剣に想っているから。


偽る事の出来ない真実。



「血って…なんだよ」

「智希……」

見下ろす智希の顔は有志と正反対で曇っている。
細い肩を掴みながら、この数日で痩せて弱った体を優しく抱きしめた。

「血なんか…血なんか…」

「……智希」

有志の頬を触り撫で続ける。
ゆっくり起き上がり有志を見下ろした。


「俺達に血なんか流れてないよ」

「えっ」

きょとん、と有志を見上げるとその顔に笑みをこぼし瞼にキスを落とした。

「父さんは実の子供を、俺は実の父親を。本気で好きになった時点で人間じゃなくなったんだ」

「智希」

「人間じゃない俺達に、血なんか流れてるわけないじゃん」

喜びか、不安か。
有志の瞼から涙が流れる。

智希は再び微笑みながら有志の涙を人差し指で拭うと、頭を撫でてあげる。
やはり、どちらが父親でどちらが子供かわからない。

「水だよ」

「水?」

「うん。俺達にはね、朱い水が流れてるんだ」

不安そうに見上げる有志にまた優しく微笑みながら手を握ると、ゆっくり瞼を閉じた。

そしてゆっくり、開ける。

「俺達に流れてるのは朱い水だから、血なんかどうでもいいんだよ」

「でもっ」

大人になるとたくさんの事が恐怖になる。

失うことの恐怖感、終わりがあるということの絶望感。

世間という、見えない壁。
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