「んんー…」
有志は顔を歪めながら体を反転し智希側に向けると、無意識なのかぎゅっと手を握り返す。
「父さん」
まるでその言葉に反応したように、有志は閉じていた瞼をゆっくり開けた。
「ん?」
まだ意識がはっきりしないのだろう、ぼやける視界の中智希を見つめる。
「と、もき?」
「うん」
ぎゅっと有志の手を握って、止まった涙の痕を付ける頬に持ってきた。
擦りながら何度も頷く。
「これは夢?」
「なんでだよ」
フっと笑うと、視界がやっとはっきりし始めた有志も優しく笑った。
「やっぱ夢だ」
「だからなんでだよ」
有志は開いた左手を持ってきた。智希の手を掴み重ね合わせる。
「智希が俺に笑いかけてくれるなんて、絶対夢だ」
絶句する智希をよそに、有志は弱々しく握った手を自分の頬に持っていく。
自分より大きく、自分より潤いのある手を頬に擦り寄せる。
「でも凄くいい夢だ。覚めたくない」
「父さっ」
「智希ごめん…な」
持って行かれた自分の手で遊ぶ有志を辛そうに見つめていると、突然声が篭り震えながら謝罪された。
「ごめん…ごめん……」
次第に智希の手が濡れていく。
今度は有志の涙で。
「何に対して謝ってんの」
黙っていたこと?
記憶はあったのに、なかったことにしようとしたこと?
「お前を手放したくないんだ…一生…誰にも」
「なっ」
細く弾かれた言葉は、智希の全く予想しなかった言葉だった。
「ごめん…親が持ってはいけない感情があって…ごめん」
辛そうに智希の手を握る有志は、虚ろな目で涙を流し続ける。
「なんだっよ、それ!なんで謝るんだよ!」
こんなに求められているというのに、怒りが込み上げてくる。
「だって」
「ごめんてなんだよ!」