第3章
02
「んんー…」

有志は顔を歪めながら体を反転し智希側に向けると、無意識なのかぎゅっと手を握り返す。

「父さん」

まるでその言葉に反応したように、有志は閉じていた瞼をゆっくり開けた。

「ん?」

まだ意識がはっきりしないのだろう、ぼやける視界の中智希を見つめる。

「と、もき?」

「うん」

ぎゅっと有志の手を握って、止まった涙の痕を付ける頬に持ってきた。
擦りながら何度も頷く。

「これは夢?」

「なんでだよ」

フっと笑うと、視界がやっとはっきりし始めた有志も優しく笑った。

「やっぱ夢だ」

「だからなんでだよ」

有志は開いた左手を持ってきた。智希の手を掴み重ね合わせる。

「智希が俺に笑いかけてくれるなんて、絶対夢だ」

絶句する智希をよそに、有志は弱々しく握った手を自分の頬に持っていく。
自分より大きく、自分より潤いのある手を頬に擦り寄せる。

「でも凄くいい夢だ。覚めたくない」

「父さっ」

「智希ごめん…な」

持って行かれた自分の手で遊ぶ有志を辛そうに見つめていると、突然声が篭り震えながら謝罪された。

「ごめん…ごめん……」

次第に智希の手が濡れていく。

今度は有志の涙で。

「何に対して謝ってんの」

黙っていたこと?
記憶はあったのに、なかったことにしようとしたこと?


「お前を手放したくないんだ…一生…誰にも」


「なっ」


細く弾かれた言葉は、智希の全く予想しなかった言葉だった。

「ごめん…親が持ってはいけない感情があって…ごめん」

辛そうに智希の手を握る有志は、虚ろな目で涙を流し続ける。

「なんだっよ、それ!なんで謝るんだよ!」

こんなに求められているというのに、怒りが込み上げてくる。

「だって」

「ごめんてなんだよ!」
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