第3章
04
「おまえはまだ10代なんだから…この先好きになる人が……」


「ありえないよ」


「………それに…順番でいったら俺…早くおじいちゃんになるし」


「それが?」


「さっ、先に死ぬ確率も」


「父さんが死んだら俺も死ぬよ」


「なっ」


「だから、長生きしてね」

有志は耐えきれず薄い掛け布団を頭まで被った。

震えている。

智希はフっと笑うと、ゆっくり布団を引きはがした。
思いの外力は入ってなくて、簡単に有志の顔が現れる。

顔が、真っ赤だ。

「真っ赤」

「殺し文句だろ」

狼狽え言葉が続かない状態が数秒続いたのち、唇が何かに触れた。

智希の唇だ。

「んっ」

有志の喉が鳴り、そっと目を閉じる。

なのにすぐ唇が離れてしまって、思わず名残惜しそうに唇を突き出してしまった。
恥ずかしそうに目を開けると、音を立てて智希が上半身乗り上げ見下ろしている。

言葉を。

智希が声を出そうとした瞬間、有志が唇を開いた。


「俺も、智希が死んだら…俺も死ぬ」

もうすぐ40歳の男性が言う言葉ではない。

しかし、智希には心臓が止まってしまう程衝撃的な言葉で。


「父さっ」

「智っんっ」

ギィ、と簡易ベットが鳴りその音を消す様に二人は唇を重ね合わせる。

「んっはっちょっ、んっ誰か来るかもっ、んっ」

智希は有志の声が聞こえているのだろうか。
何度も角度を変え舌を押し込み絡み合わせる。

有志の口端からは飲み切れなかった二人の唾液が流れていて、枕を濡らし始める。

誰か来たら。
そう思っているのに、気がつけば有志の腕は智希の背中に手を回していた。

あの日の様に、初めて体を重ねた日の様に。

有志も唇を突き出し舌を押し込む。
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