第3章
01
ガラガラガラ……

ドアの開く無機質な音が響くと、緊急用の所為かベット一つと丸椅子が2つあるだけの小さな部屋が目に飛び込んできた。

真っ白いカーテン、真っ白の壁、真っ白のシーツが清潔感を漂うが逆に無機質で不気味ともとれる。
慣れない病院の匂いに心地悪さを感じながら、唯一色があるベットを覗き込んだ。

「父さん」

有志はシャツのボタンを何個か外し寝息をたてていた。
規則正しく苦しそうではない。
顔色もよさそうだ。

「よっぽど疲れてたんだな」

ゆっくりベットに近づくと、有志の寝顔から視線を反らさずパイプ製の丸椅子に座った。
椅子が体重に圧迫され音が鳴るが、有志はまだ起きない。
カーテンの隙間から日光が注ぎ込まれてとても明るい。

そういえばまだ昼過ぎだもんな。

そう思いながらじっと寝顔を見つめる。

「父さん」

呼んでみる。

起きる気配はない。

「父さん」

小さく呟きながらシーツから出ていた右手を握った。

暖かい。

生きてる。

「っ………」

涙が溢れてきた。
どんどん瞼に溜まり、目を閉じた瞬間ポロポロと溢れ出てくる。


「よかった」


喉を鳴らしながら唸るように声を発し、震えながら有志の手を頬にあてた。

暖かい、手。
まるで何か確かめるように何度も頬に擦りつけ、次第に智希の涙で濡れていく。

とてもとても熱い涙。

「っく父さっ父さん」

有志の手で受け止められなくなった涙はシーツにポタポタと零れていく。

するとピクリと有志の手が動いた。
智希も反射で体を震わせ有志の顔を見ると、眉間にシワが寄って目が軽く痙攣している。

「……ん…」

低い有志の声が響いた。

智希は俯いていた顔を上げ有志を見つめる。

涙で目がぼやけているというのに、拭うことを忘れて見続ける。
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