// ラムとビールに揉まれた夢



 人間から動物が生えてるギフターズの合間を縫って医療班の中に見知った人影を探す。あ、いた。なんで初手で白玉あんみつの大皿のある卓直行してんだよ。お前飲むより食う気で来てるだろ。
 ササキが呼びに行ったから医療班も結構来てる。白衣の消毒液臭いのが近くに固まってて、結構女の子もいる。確かに能力者のほぼいない医療班からしたらxxxの近くにいるのが一番安全だ。てか髪の色変わってる。可愛い。そんなゴリゴリに脱色かますんだな。
「ぺーたんどこいくドラゴン!?」
「でッッ!!」
 立ち上がろうと膝を立てると隣の姉にマントをフルパワーで掴まれて畳に勢いよく倒れて鼻を打った。
「いってェな!どこでもいいだろ!お前のいねェとこだよ!!」
「姉に向かってお前っつったドラゴン!?!?」
「あああああ本当に最悪だやめろその語尾!」

 やっと姉貴がブラックマリアの膝で寝始めて静かになった頃には、既にxxxの姿は大宴会場になかった。クソ。さっきまでいたのに。そもそも今日の宴の理由もよくわかんねェ。飛び六砲が珍しく揃ってるからとかか?誰か主旨言ってた気がするけどカイドウさんはいないって辺りからよく聞いてなかった。何度も振り返って姉が寝ている様子を確認し、大宴会場から抜け出した。
 医務室の扉は少しあいていて、廊下に光が漏れていた。引き戸を片手で開く。明かりのついた医務室には誰もいないように見えた。まさかもう寝た?首を回すと視界の隅で動くものがあった。
「なんだオマエか」
 マスクをしていないxxxが、カーテンで仕切られた隣の部屋から顔だけ出してまた引っ込んだ。うがいする音がして、水音が少し。そこ部屋あるんだ。知らなかった。
 真っ直ぐ歩いて行ってカーテンを片側に寄せると、医務室に後から増築した洗面所だろうか、小部屋には小さい洗面台と幾つかの棚と奥にもう一つ壁に仕切られた狭い空間しか見当たらない。陶器の洗面台の前の壁には顔しか映らないような高い位置に鏡がついてる。xxxは洗面台の前で太めの黒のカーゴパンツのウエストを折ってるところだった。裸足だ。プラチナブロンドまで脱色重ねられた軽そうな髪も水分を含んでいて、上半身もびしゃびしゃに濡れたままなのに、その全部を拭う気がない白いタオルを首にかけていた。床も濡れてる。水でも被った?
「シャワーあんの」
「ない」
「は?」
 xxxを見ないように視線を逸らして小部屋の入り口から声をかける。白が添えられ薄らピンク色にも見える肌には手術や傷の跡はない。ほらな、噂は見たことねーやつの妄想。俺ら古代種に傷なんか残るわけない。xxxが裸足だから部屋に踏み込むのには躊躇した。曝け出された上半身もだがマスクをしてない口元も気になってしまう。
「あー弱いのが飲まされてたかラ助けたら吐かれた、何人か寝てるから静かにしろよ」
 上着は汚れたから脱いだのか。脱いだものが周りに落ちていないのはたぶん、洗うじゃなくて捨てるが選択肢に入ってる。
 xxxが洗面台横の棚にコップを置いた。腕を高い位置に持ち上げたから背中から腰までのラインが綺麗に見えた。いや腰、薄っ。咄嗟に自分の腹に手を回して確認してしまう。
「あそうだコレ」
 ポケット左右にそれぞれ忍ばせてきた果実酒のボトルとワノ国の醸造酒のボトルの肩を摘んで胸の高さへ持ち上げた。鏡越しに見てたxxxが目を輝かせて振り返った。
「おーいおいおいオマエ最高だ」
 ぺたぺたと足音をさせて近づいてきて果実酒のほうを手に取り片手で蓋を開けると、庭に水やりするような勢いで喉に流し込んだ。やっぱ甘い方か。いつもよりちょっとテンション高いな。酒は嫌いじゃなかったから飲み足りないはずと踏んで当たりだった。可愛い。にやけてしまう唇を噛んだ。
「あのさ今って、していい」
 ボトルをあっという間に逆さにした男が顔の向きを俺の方に戻した。たった三歩先にいる。一歩足を出して散った水溜りを踏んだ。"あとで"って言ったろ。
 xxxが空になったボトルを緩慢な動きで足元に置いた。
「けっこう待たさレたな」
 そう言って後ろの小さい洗面台に両腕ついて体重預けて、顎をあげるようにして首を傾げる。いつも空とか海とか遠くの方に投げやってる視線と思考が、真っ直ぐ俺に向いてる。涎が出る。
「それどういう意味」
「意味?」
 俺も洗面台に手をついて鼻が触れそうな至近距離から聞くと鸚鵡返しして眉を動かした。くそ、ただの言葉通りかよ。色々期待してんの、俺だけか。
「なんでもねェ」
「フーン」
 バイカラーのマスクを摘んで顎に下ろされ、ぺろりと舌先で下唇を舐められた。まだ"あとで"か?って挑発する肉食獣の尖った歯が見える。あーあーもう、そうしていい、ってことだよな。濡れたサイドの髪ごと両手で頬を挟んで下から噛み付くように口を開けた。
 薄く開かれた唇は柔らかくて、簡単に侵入できた口の中はミントかなんかとアルコールと砂糖が滲んで苦い。舌が舌と抱き合うみたいに真似して差し込まれてきて、その感覚に驚いて体を離した。舌の真ん中に。
「xxxお前」
 離れた俺へ上目で何度か瞬きしてから、れ、と俺にはっきり見えるように舌を出した。
 センタータンに銀のピアスが刺さっていた。舌を仕舞って得意げに口角を上げる。それで、いつも、マスクして。
「可愛いだロ」
 恥じらって俯くとこだって期待しなかったわけじゃない。逆にここまで堂々エロいのは一度も想像してなかった。歯を食いしばって一度目を瞑り今の一瞬を完全に記憶してから、唾液を飲み込んで頷いた。
「もう一回したい」
 いつもの様に聞いているのかいないのか、xxxの視線がとんと腿が触れてるあたりに落ちてそのまま自分の速度で考え事してる。ピアスを歯列のあいだでゆっくりと左右に行ってきてさせて、かち、かちと2回微かな音を俺に聞かせる。俺の視線はその口元から動かせない。
「だめだ」
 言うと思った。俺がなんでだよと言う前にxxxが人差し指の背で、俺の硬くなり始めてる竿をボトムの布越しについと撫でた。
「こっちのぺーたんが怖い」
 触られると思ってなかったから嬉しいような恥ずかしいような感覚でむず痒い。びっくりした。
「それは、いいだろ、べつに」
 しっとりとした素肌の肩に額をつけて一度深呼吸する。大体こんな格好してるお前が悪いだろ。
「あとその呼び方、好きじゃない」
「ん、悪かった、ページワン」
「そっち話しかけんな馬鹿ッ」
 一緒にいると落ち着くのに興奮する。触れたら一気に沸騰してグラグラと煮える。この感覚はまだよくわからない。腹減ってるときに少し近いかも。吐き気がするまで食い尽くしたい。お前も同じだといいのに。貪りあってどっちの骨が残るか、天国から見ようぜ。




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