// 波の綾に輝きが詰まっている
「誰ーっ！？ｘｘｘ水槽に入れたの！ルフィ！またアンタ！？」
「違う！今回は俺じゃねェ！」
ナミに服の胸元を両手で掴まれ揺さぶられているルフィの向こうで、深海魚の人魚が大水槽の壁際に沢山の骨の山を枕に幸せそうに眠っている。乳白色の大きなフリルのついた何本もある尾でとぐろを巻き、目の前で揺れる麦わら帽子にも一切反応しない。
「ｘｘｘー、起きてくれよー、そんなにお腹空いてたのか？」
蹄でガラスを叩いて声をかけても瞼は持ち上がらない。食い散らかされた魚たちの細かな肉や鱗が水槽の中をゆっくりと漂っている。水が昨日より濁ってて、水槽の中には彼以外の生物の気配がないように見える。前に一度、水槽に入れてみたことがあって、その時も少し魚が減った。前回は短時間だったけど今回は一晩、しかも夜闇は彼の住処だ。ｘｘｘは友達だけど、彼は野生生物なのだと忘れてはいけない。
「あ俺だ」
通りかかったゾロが、昨日の夜寒そうだったから入れてやって忘れてた、と悪気なく言った。
「ゾローーっ！！アンタよく見なさいこの惨状を！全部食べられちゃってる！！見てサンジくんも真っ白！」
「幸せそうに眠るｘｘｘちゃん素敵だ……でも今日のランチは具なしのパスタに変更です……」
「カリカリすんな、また釣りゃいいだろ」
また釣ればいいって量じゃない、直ちに備蓄計画に影響が出る。サンジは複数の感情の表情を一つの顔の上で複雑につくってる。これは、ナミじゃなくてもわかる雷予報だ。
「はよ釣って来ーーーいッ！！」
ｘｘｘ、早く目を覚まさないとｘｘｘにも雷が落ちる、とガラス越しに内緒話をしてもぴくりとも動かない。ゾロを甲板へ放り出したナミが今度はルフィを振り返る。
「ルフィ！アンタはｘｘｘに水槽の魚は食べちゃダメってちゃんと言いなさい！チョッパー！口出し厳禁！」
「なんで？」
「アンタが言わないと言うこと聞かないのよ」
「んん？そうか？」
ルフィがぐんにゃりと首を捻った。階級一位のルフィはピンと来ないかもしれない。たぶんｘｘｘの中では階級順位のようなものがある。はっきり聞いたことはないけどぼんやりと感じる。俺とは友達みたいになんでも話してくれるけど自分より力が弱いってわかったやつのお願いとか命令はたまに無視したりわかんないフリしてる時がある。
雌雄は関係なく基本的に自分より強いやつが好きで、覇気持ちのヤツなんかだと目の奥がハートになって声がいつもより猫みたいになる時だってある。ルフィと遊んでる時が一番楽しそうにしてる。ジンベエとサンジはあんまり強く言わないから、ｘｘｘはその辺りの結構上の方に自分の位置を入れてるみたい。
「忘れてるみたいだから言うけど、ルフィが楽しみにしてたデカダントジャイキリカジキも食べられちゃってるから！」
「あああああああぁぁぁ！？！？ｘｘｘおまえーーーーーっ！！」
事態を認識できたルフィの絶叫が響き渡ると、即座にｘｘｘがはっきりと目蓋を持ち上げ顔をあげた。ほらな。それから大水槽へ手が入れられる上階へ走って行くルフィの足音を目で追ってる。
間も無く生簀の口からルフィの両手が勢いよく飛び込んできて、慌てたｘｘｘのくらげみたいな柔らかな脚が一斉に解けて広がり、乱れる。ルフィが水に手を突っ込んでいくくらい本気だ。脇の下で体をしっかり掴まれたｘｘｘが一気に水面に引っ張りあげられていく。おへそからその下部が異常なほど球状に膨らんでいるのが見えた。あれはお腹いっぱいで動けないだろう。
「ルフィ！暴力はダメよ！猫ちゃんなんだから！」
「猫！？ｘｘｘはどっちかといえば魚だぞっ！？」
慌ててナミと一緒にルフィを追いかけるともう水槽を空にしたことは叱られ終わっていてｘｘｘも反省した顔でしおしおだった。上半身は水面から持ち上げられてるのに無抵抗だ。腰から下は水に浸けたままドレスのように傘状に広がっている。脇の下で持ち上げられてる姿は猫っぽいかもな。ちょっとならいいけど全部はダメだからな、とルフィに念押しされて、ｘｘｘがこの世の終わりのような悲しそうな声でみゃぁと返事をした。あ、鳴き声か！
「あそうだ！ｘｘｘおまえこないだトラ男に負けてたろ！」
ルフィの再び大きくなった声にｘｘｘはまたか細くひゃぁみたいな鳴き声で返事をする。ん？ｘｘｘトラ男と喧嘩でもしたのか？ルフィのお叱りの内容がわからなくなってナミと顔を見合わせた。
「トラ男はいいやつだけどダメだ、他の船の船長だ」
ルフィがしょんぼりと俯いたｘｘｘの顔をあげさせて真正面から目を見てそう言ってる。何か合点がいったナミがあら、と小さく声を上げた。後で俺にも教えてくれよな。
「よそ見すんな！わかったか！？」
揺すられて戸惑いがちに一度小さく頷いたｘｘｘの表情を見て、後ろにいたサンジが何か叫びながら今上って来た階段を頭から落ちていった。うーん、俺もトラ男もｘｘｘは雄だって見解なんだけど、関係なくサンジがおかしくなっちゃうな。困ったな。
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