// 弓状筋肉の収縮状態における構造的並列の考察



(ふんわり時空)
(導入→大変だ!サニー号にローが単身で遠征にきているときに特大激ヤバ大嵐が!チーム麦わらのわちゃに巻き込まれ大雨大風の中でひとりだけ海に落ちるローちゃん!絶対絶命!明日はどっちだ)



 胸部への強い衝撃で意識が点滅した。もう一度の衝撃で骨が軋む音が体内で響いて、完全に浮上すると同時に飲んでいた海水のせいでひどく咽せる。脱力感と闘いながら、体を横に向けようとすると掌に細かい砂の手触りがした。俺の意識の回復を確認したためか、拳を振り上げていた何者かの姿が一度見えなくなった。
 身体を起こすと足元が透明度の高い波と白い砂に洗われている。波打ち際には自分よりでかい無意識の人間を海からあげようと奮闘した痕跡が残っていた。この海岸線には雨は降っていない。クソ、久しぶりに落ちた。最後の脚あれ麦わら屋だったな、今度という今度は許さねェ。沖合では二本角の生えた黒い雲が、船影ひとつを覆い片手で弄んでいるが見えた。鬼雷追積雲か。珍しい。ベポに見せたい。
 ブーツを脱いでパーカーの水分を絞っていると、軽い水音を立てて人の肋骨を折りかけた命の恩人が海から戻ってきた。
「お前、船と併走してた」
 魚人、と言いかけて止めた。海と砂の境目にへたり込むようにして座って、そこから陸には上がらない。薄い腹の臍から下からがドレスのようにボリュームがあり、人間と構造が違う。陸上では立ち上がれない。その脚で俺の帽子と、鬼哭を持ってる。
「悪いな、助かった、ありがとう」
 砂浜を踏み波打ち際まで寄っていく。薄く開いた唇からヒャーとミャーの間の音が微かに返事をした。
「喋れねェのか」
 半透明な脚の一本が持ち上げている鬼哭の柄が下に向いていて目が離せない。危ねェ。俺の手に近づけてきたのを受け取ろうとするとひょいと逃げた。
 両手で上体を支えたまま、ミルキーブルーの瞳が俺を見上げて瞬きする。見えてもないか?しゃがんで視線を合わせると素足が波に濡れる。顔の前で手をあげると視線が追ってきた。嗅覚か触覚かで見えてるな。一抹の光も届かない深海に暮らす魚は、眼が退化しているものも多い。途端、何かに気がついた様子でパッと表情を明るくした。浮かせた俺の左手を、ひんやりとした両手が握った。
「ん?」


「違う……ッ!服を、脱いだからって、ッ、泳ぐわけじゃない!あと俺は、カナヅチだ!」
 あいつらと一緒にするな。げほげほと咳き込みながら、また同じ白い砂浜に打ち上げられる。可愛い顔して、とんでもない馬鹿力だ。物理的に海に引き込まれた。言葉は伝わってないかもしれないが俺が泳げないのはきちんと理解したんだろう。途中で慌てて引き返した。信じられねェ、この短時間に二回も溺れた。麦わら屋、許さねェぞ。
 気分の悪い疲労感で海から完全に這い上がれず、そのまま大の字に倒れた。するとそいつも俺の真似をして砂浜に寝そべった。悪びれた様子はない。終わったことなのだろう。透明なゼリー状の半身が砂に塗されている。足の先は俺と同じように少しだけ波に触れている。
 海の中で見えたふんわりと広がるドレスは、浅い海で太陽の光を蓄え縁が虹色に反射していた。ジェリーフィッシュか、若しくは深海の未発見の種か。掌を上にして放り出していた手の上に顔を乗せてきた。小せェ顔。頬についてる白砂を指の腹で落としてやると、とろけそうな瞳でゆっくりと瞬きをして、頬をすり寄せてきた。


『トラおーー!無事でよかった!心配したぞ!xxxもそこいるか?』
 子電伝虫からトニー屋の涙声が響き渡った。それにxxxがひゃーに近い音で返事をした。トニー屋が意思疎通出来るようだ。
「すぐ南東の小島にいるが見えるか」
『見えない!ずっと嵐の中なんだ』
 雷雲が振り切れず未だ嵐の中で、向こうからは島影が確認できないようだ。鬼ごっこよろしく対象を飽きるまで追いかけ回す雲だ。穏やかな水平線の風景の中で、そこだけ大荒れしている。ピックアップはまだしばらく望めそうにない。まぁ、ナミ屋あたりがなんとかするだろう。俺の肩に顎を乗せている生物の生態を軽く聞いてみた。
「xxxたぶん喋れるけど訛りが酷いからすぐには難しいと思うぞ、あと大声出すと付近一帯の魚が死ぬ」
 なんだと。童話の中の船乗りを誘惑する歌声よりも随分と猟奇的な声だ。ジンベエも何の人魚かわからない。最近麦わら屋が深海から釣り上げた。眠る時に深海に潜ってしまう。子電伝虫は、xxxと寝る前におはなしする用にトニー屋がこっそり持たせていたものだそうだ。出してきた時には驚いた。
「それからものすごい力強いから注意してくれ」
「ああ、もう肋骨を折られた」
「いっ!?医者ああああぁぁぁ!!あ俺だ」
「冗談だ」
 通信を切る時に受話器の向こうから、xxxちゃんに何かしたら許さないと黒足屋が喚いてるのが若干聞こえた。雌か?骨格が雄だぞ。
「ちょっと見ていいか」
 波打ち際で座ってるxxxの、肩から落ちて腕に引っかかっているだけのシャツの裾を片方捲る。チューブトップで胸部が隠されているが膨らみはないし、首と脇腹に複数あるエラらしき切れ目に干渉しないような長さだ。xxxが体を捻ると肌に引っ張られてエラから内側の内臓色が見え隠れする。エラ有りならジェリーフィッシュではなく透明な魚か?わかるはずもない。
 臍より下の人間なら脚部が始まる辺りから半透明になり、複数生えてる足は太さがまちまち。濡れた砂浜に膝をついて下腹部から砂を落とすように足の先までなぞる。ひらひらした飾りみたいな長い触手もあるから、体長はボリュームのある脚のせいで250以上あるか。表面に鱗はない。透明な内側には骨もなさそうだ。でも体表に吸盤がないから蛸ではない。魚人族の解剖図はどれも個性があって驚かされる。海中では柔らかく崩れそうに見えたのに、しっかり詰まったゼリーのようで重そうな不思議な手触りだ。脚の先は片手で水を掬ってかけて砂を落とすと、海底が透けて見えるほど透明だ。下腹部近くまで戻ってきて、この辺りが太いから人間でいう大腿筋か、と思考していると触れていた手に手を重ねて制された。じっとしてくれていたから、興味のままに観察してしまった。
「すまん、礼儀を欠いた」
 顔を見ると、ずっとくすぐったいのを我慢していたのか、困ったように視線を逸らした。肌が白いせいで、血色がよくなるとすぐにわかる。白い目の縁までじんわりと赤い。
「逆か?」
 小さい手の指の股に自分のを滑り込ませてみるが解かれない。あってそうだな。肩をちょっと押して、組んだ手をそのまま砂浜へ押し付ける。重心が腕にしかないから倒すのは簡単だ。驚いて肘をついてるが問題ない。嫌なら突き飛ばして肋骨折るなりするだろ。
「大声出すなよ」
 さっきと似た手つきで腹の真ん中から掌を滑らせていき、半透明の脚の付け根に指を滑り込ませる。体の真ん中、守れる位置、この辺か?指先にとろみのある粘液が触れた。挟んでる脚が小さく跳ねて、何か期待してうねる。
「、ッ」
「出すなって」
 黒足屋に怒られちまう。口を塞ぐと、口腔が小さくて舌が薄かった。顎がすこし小さいのか。呼吸するのが下手だ。苦しそうに顎を引いてすぐ逃げる。背中が砂について、もう逃げ場がない。
 そのまま黙らしといて人の股間と同じような位置にある小さな割れ目を右手の中指の腹で押す。このあたりの皮膚は柔らかくて伸縮性が高い。脚が震えて、腹に力が入ったり抜けたりしている。反応良い。舌を軽く噛まれたので少し離すが、また口付ける。冷たかった呼吸の温度が上がって震えてる。割れ目からはぷっくりとした小さい突起が迫り出してきた。それをやんわりと押しつぶし、突起の根元を何度も指の腹で往復する。分泌される体液でよく滑る。そのまま弄り続けるとじわじわと突起が腫れてくる。人にされる感覚が不安だったのか、空いてる腕で首にぎゅうと抱きつかれた。先端から液体が溢れる瞬間は、何本かの脚に挟まれた右手が抜けなくなるかと思った。
 柔らかい唇を解放すると、全身脱力して肩までほんのり赤く色づいて色っぽい。親指を舐めると、唇に少しだけ残った海水の塩辛さと苦みを感じた。
「雄だな」


 直後に文字通り黒足屋が船から飛んできた。
「このドブ男野郎!!!!」
 怒りの籠もった重い右脚を背面で鬼哭の鞘で受けて弾く。下に敷いたxxxに当たらない、俺だけを吹き飛ばす角度だ。紳士であれってわけか。
「雄だ、確かめた」
「うるせェ!無限の可能性!男の浪漫!この世はデッカい宝島!」
「俺の方がタイプだと言った」
「xxxちゃんがいきなりそんな低俗なこと喋るかァ!!」
 海によってテイスト違いはある。でも人魚姫が海に落ちた王子にひと目で恋するのは鉄板だろ。残念だったな。




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↓ROOM317

↓dfmf



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