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「パソコンは人間のことどう思ってるのかな」

カフェテラスで全面ガラス張りの壁に面したテーブルに肘をついて、昼飯を食べ終わったxxxが呟いた。今日はミンゴは留守番らしい。
みぞれがけの鶏の唐揚げを口に入れて咀嚼し終わらないうちにご飯も一口頬張る。旨い。飲み込んで答える。

「xxx、パソコンには気持ちとか感情とか、無いぞ」

俺たち人間がほぼ無意識的にしている歩行の動作ひとつとっても、パソコンはどの方角へ向けてどの足をどんな速度でどれくらい動かすかを計算して行い、立っている一瞬さえも全て誰かが組んだプログラムに律されている。
人ならざるものが人の心を持つ事は浪漫があるけれど、人が作っている以上叶わぬ夢だ。例えば基本搭載されている持ち主の人命を身を挺して守るプログラムはパソコンに感情があって痛いだ何だと言い出したら機能しないし、パソコンの記憶を消去出来ず前の主人がどうたらと言い出したら口の悪い元カノ以上に厄介だ。そんなパソコンはダッチワイフ以下の重量がありすぎる観賞用マネキンだろう。パソコンを持つ人間はそれを理解して家電としてパソコンと過ごしてる。それが人間の形をしていても、彼等には感情はない。エースだってサボだって、どう答えたら俺が喜ぶかって計算して動いているんだ。俺が持ち主だから。

まっさらな状態でパソコンを手にしたxxxはミンゴに何にも命令したりしないし、アイツも自由気ままに人間らしく動きすぎてそう見えて、そうあって欲しいと思う気持ちもわかる。
でもあいつらは作りもんなんだぞ。

「なんかあったのか?」
「んーん」

ぼんやりと投げられている視線の先には、カガとニルがこっちに手を振って近づいてきていた。


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バイトの帰りに裏口から出るとすぐの和菓子屋のシャッターを背にドフラミンゴさんが立っていた。今日はバイト早かったのかなと駆け寄ると、ハッとする。

「なにそのセットアップ!超かっこいい!」

買った覚えのない超クールな黒のセットアップ、ジャケットと揃いの生地のパンツは裾を短めに設定してあってインには杢調の白のボートネックのシャツ、ポケットにも白のチーフが刺さってる。いや多分俺のハンカチだあれ!

「フフフ、いいだろ」

ドフラミンゴさんがそう言ってポケットから手を出すと両腕を広げる。超似合ってる悔しいずるい!違くて!飛び込むようにジャケットの襟を掴んで左右にを思い切り開く。内ポケットの傍に織りネームがあるけどブランド名のはそこにはない。でも間違いない。

「おっと情熱的なのは大歓迎だぜ」

そのままぎゅうと抱きつかれる。着替えてきた白いシャツからは夜なのに洗剤のいい匂いがした。

「む!ちょ、これ絶対クルーエルオム載ってたやつ!ドフラミンゴさん!!」
「なんだよ、似合いそうって言ってたろ」


言いましたとも!!!でもね!?


「上下で20万とかのでしょ!?」


口に出しただけで目が回りそうだ。ドフラミンゴさんのバイトのお給料でも中々届かない額のはずだ。
パソコンがバイトするなんておかしな話を了承してくれたシガーバーの店長さんは本当にいい人で、人間として採用したしいい子なのでとか言ってほぼ人間相当のお給料をくださってる。それでも俺の生活費に足されるから、格好いいなぁ高いなぁと眺めてた雑誌のお洋服をまるっと購入なんて、購入なんて、つまりそれはどの口座から出たの!?


「鰐野郎が金くれた」


「わ」



今度こそか!!!やはりか!!!


「い、い、い、いかがわしい仕事!?!?」
「フフフフフ!持ち株を12時までに手放せって教えてやっただけだ、安心しろ」



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ディスプレイの小窓が今日は2つ出ている。麦わらが新型を組み直してる最中の独り言に隣りのシロヤマが時々答えてる。
目を通し終わったデータ資料の束を後ろに控えている秘書役のパソコンへ渡すというより出すと勝手に受け取った。デスクに置いた手帳から光沢ある写真用紙の角が覗いている。適当に挟んだからな。そういえばと前置きして画面を見ずにパソコンオタク2人へ声をかける。

「この個体はプロトタイプで物理的にもう存在しない、胸の文字はpなんとかって書いてあるんだと」

写真の出どころを気にしてたぞ、と付け足して咥えていた葉巻をトレーへ置く。友達のパソコンだから気に掛けてるんだろうが麦わらが先に声を上げる。

"なんだよシロヤマ!ミンゴに読めんならもっと鮮明にできるだろ〜〜!"
"あんなノイズだらけの写真引伸ばすなんて無理ですよ!それに僕は画像処理ソフトじゃありません!国相手にハッキングかけただけでも有能でしょう!?"

手帳から印刷した画像を取り出して手帳は元の場所へ置く。
写り込んじまってる、と言ったな。
画像を改めて見れば、後ろの箱体の窓にピクセル単位の人型シルエットがあるように見えるが、そういった箇所をひとつずつ睨んでいくのは俺たち人間には不可能だ。胸の黒と白の境にpなんとかという記号の羅列があるようにも見えない。

"科捜研の女じゃないんですから"
"おっ!俺あれ好き99.99%顔写真と一致!とかってさ"
"あれドリームですから防犯カメラの映像をあそこまで拡大鮮明化とか無理ですから"
"えーー"
"えーーじゃないですよもぉー!"


あの野郎はこれ以上は無理だと言う解像度の画像の、黒い点にしか見えない呼称ないし型番を読み上げた。

違うな。
アイツは、この文字の羅列も移り込む位置に存在した周囲の人物も全て"記憶している"のかもしれない。




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