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シガーバーの閉店間際、何時ものように奥からスタイルだけは何処までも良いニヤけ顔が出てきて俺のテーブルに纏わりつく。
向かいに座ったところで今日はそいつに用事があるから煙をかけるくらいで戯れの茶番は終いにしてやり、手に馴染む革の表紙の手帳に挟んでいたわざわざ印刷してきてやった画像をテーブルに滑るように投げる。麦わらのが拾ってきた画像は、ノイズが砂嵐のように吹き付け画質は粗く引き伸ばしても2Lサイズでの出力がいいところだった。

「てめェか」

葉巻をトレイに乗せず咥えたまま手帳をポケットへ仕舞う。テーブルについた肘の辺りまで滑ってきた写真が目に映らない筈はない。視覚機能異常なら頭部パーツごとの交換をお勧めする。定期メンテナンスもな。
少しの間、劇場型によく喋るサングラス野郎は幕間のように黙っていた。


「俺じゃねェ」


素人目にもそっくりだが、返ってきたのは否定だった。

写真用紙の光沢の中には、個人所有とは到底思えないスパコンサイズの筐体幾つかを背景に、何本ものコードの束が両腕に絡みつき拘束されるように接続された、色素の薄い色の髪の男型のパソコンが捕虜のように膝をついている。俯いているが恐らく耳から目元にかけて何かかけているだろう。胸の半分から下が肌色でなく黒に塗装されたボディはまだ未完成な事を匂わせる。

「pがついてる、"p-OS DD.0001.cK203.a2"、プロトタイプ、しかもかなり初期の型だ」

とん、とんと遅いテンポで写真の中の人型パソコンの黒い切り替えの入った胸のあたりを長い人差し指が叩く。

「フッフッフ、ちょっと写り込んじまってるな」
「あ?」

会話の途中に突然独り言を言ったかと思うと写真から顔を上げる。不気味に真っ直ぐ笑顔を向けてくる紫のサングラスの奥が光った。

「どこで手に入れた?」



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大事を取って2日間バイト休んだからかすっかり熱も下がって、今日はドフラミンゴさんバイト遅いなと思いながら先にシャワーしてた。
いやその、シャワーだけじゃ、ないけど。


「ぁっ、て、てつ、だわな、くてい、ですから」


軽々とバスルームのつるりとした壁に後ろから押さえ止められて、本来なら1人でする行為を代行される。

絶対俺が鈍いわけじゃない。なんでバレるんだろう。ドフラミンゴさんが音を立てずに玄関のドアを開けるのも上手すぎるし、広い家じゃないしバスルームにいるのはすぐわかると思うけど、なんで嬉しそうに手伝ってやろうかってドア開けてくるわけ!?おかしくない!?濡れるでしょ!?
服が濡れるって言ったら上着を脱いでバスルームの外に放った。その仕草がなんだかいけない大人のかっこ良さで、やっぱり脱がないでと自衛的に言ってしまい、どっちだよと笑われた。どっちでもいいから離して下さいいい。

「ふ、ぁ、だめ、だめ、でちゃう」

離してと首を振っても、鼻にかかった曖昧な返事しか戻らない。
言い表すなら絶妙な力加減だ。最も敏感な身体の一部を完璧な指がたったひとつの逃げ道も残さず絶頂へ促していく。最低限の力で押さえられた左腕も、身体の中心を握り込む手も、何も纏わない俺の肩に愛おしそうに摺り寄せられる頬も、振り解けない。小さな水音はシャワーがかき消していく。もう、もう限界だよ。

「よごれちゃ、」

俺が選んだ抜群の外し加減のアニエスのノンウォッシュデニムが、じゃない。


「フフフ、いかされてェか」

俺の心を深い深い海の底へ引っ張るセイレーンの歌声。
振り返らないでも、耳のすぐ後ろでどんな表情してるかわかる。紫のサングラスの奥で相手の答えなんか全部掌握してて、十本しかない美麗な指で相手の手綱だって何本も掴んで制御してて、計画した作戦の進捗が大変よろしいって具合に口の端を引き上げる。


「俺の手に」


人間と違ってパソコンは神聖なくらい清潔に感じる。


「おねがい、」


ほら、人間が、そうじゃなく思えるから。

「いかせて」


「集中してろ」

どこに?
そんなの、聞かなくても。
ゆっくりと上下に絞られる感覚がして敏感な部分から快感を与えてくれる特別な手が離れて、シャワーの飛沫に濡れる内腿を大切に扱うように撫でる。もう片方の手が、シャワーの水滴だらけになってる鏡の側にあるボディ用のオイルに伸ばされて俺の死角に攫っていく。それをどう使うかなんて俺しか知らない筈なのに。
まだ準備が整っていない入り口に少し垂らして、柔らかな赤ん坊の足の裏を突つくみたいに刺激する。こんなに微弱な刺激で腰が抜けそうだ。俺の呼吸に合わせてるのか、段々と今にも侵入しそうになる指がやらしい。もう強請ってしまおうか、と息を吐いたところで充分に充血して柔らかくされたそこに長い指が爪ひとつ分差し込まれた。

「ふ、」

何を観光しているのか、のんびりと指は肉の間を進む。バスルームの床をなんとか掴んでるつま先から、両の脚が期待で震える。

「や、も、はや、く」
「駄目だ」

俺のパソコンは、こんなに切羽詰まっていても言うことを聞いてくれない。
俺が、今どんなに、気持ちいいか、知らないくせに。わからないくせに。

焦れったくゆっくりゆっくりと深く入り込む指が、俺に食べられているのか、それとも俺が内部から食べられそうになっているのか、錯覚する。とてつもないあの快感を焦らされていると思うと、それだけで体の芯が白く弾けるほどの熱をもつ。
頸、首、背中、と俺の見えない部分にばかりキスされる。1ミリ進むごとにされてると感じるくらいにひとつひとつが丁寧にこなされる。この指は俺のことを絶対に傷つけない。根元まで埋められた人差し指が同じ速度で少し抜き取られ、あの内側を的確に押さえられる。

「あ、あ、あっだめ、っ」

とめられない。
駆け上って来る。
これ、だめ、きちゃう。
後ろのほうが、何倍も感じる。こんなの普通じゃない。でも、体が、ドフラミンゴさんが、勝手に。




1回で終わりにしてくれて俺の中からドフラミンゴさんの指が出てって、今にも力が抜けそうでお風呂場の壁に縋ってやっと立ってる俺の身体を、後ろからもう片一方の腕が支えてる。もっとと強請るような体勢に気付いたけど、自分の指より気持ち良いのは事実で身体は素直ってやつかと思うと余計恥ずかしくなった。

「また、ねつ、でちゃう」

余韻の立ち上るまだ整わない呼吸のまま、文句を言う。だってやられっぱなし。俺がご主人様なのに。
いつもの笑い声と、耳の後ろにちゅ、と可愛く音を立てて口づけを落とす。なんか、嬉しそうで腹立つ。

「出ないように管理してやる」




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