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"米の軍事通信衛星が一機制御不能となり一切の手掛かりが途絶え丸2日、前代未聞の事態に…"

朝のニュースが聞こえる。多分横に寝てるドフラミンゴさんがテレビつけてるんだと思う。俺は眠い。まだ目は開けないぞ。今日は洗濯しない日だと今決めたんだ。洗濯籠からロールアップしたままのデニムの裾がはみ出てるけどそれは気の持ちようではまだ籠に入ってる。大丈夫だ。お布団気持ちいい。

"未明に軌道上に問題なく存在している事が確認出来たが、管制室からの指示が全く届かず…"

「んっ」

狭いベッドで寝返り打とうとすると、薄掛けの羽毛布団の中で逞しい腕が脇腹を掠めた。落ちるのを止めてくれたのだろう。誰の腕かわかってるので確かめたりはしないけどくすぐったいと体が驚く。俺は右を向きたいのに、その腕に簡単に引き寄せられてしまう。パソコンの馬力の前では人間はかくも非力なものなのだろうか。まぁ左向きでも、いっか。

"緻密かつ大胆なシステムへの不正な侵入があったと発表が宇宙飛行センターで行われ…"

目を瞑ったまま、次々と下らない考えが脳内に眠たく陳列される。
やっぱり大きいベッドがいるなぁ。ドフラミンゴさんは落ちたりしなそうだけど、俺が落ちる。大きいマットレス、玄関通るかなぁ。せめてセミダブル無いとなぁ。買うお金が無いけど。一緒に寝るとあったかいから、冬の寒い時ドフラミンゴさんは湯たんぽになるかもしれない。体温変えれるみたいだし。
ウエストの上で俺を甘やかして寝かしつけてた手が、ついと脇腹を通過した。

「んーん」

断固二度寝をするという強い意志のもと、拒否の声を上げるといつもの笑い声が聞こえた。起こそうとイタズラする猫みたい。と思ったが撤回。撫でられてる。尻を。

「あのっ、ちょっ、揉まないで」
「んー?」

やわやわと揉み解され始めて、理由はわからないけれどあまり人には触られない部位への刺激に、借りてた胸から声を上げる。女の子のお尻ならともかく何故野郎の尻を揉む。ドフラミンゴさんは何のことやらと、すっとぼけて片足で器用に俺の脚を纏めて来る。

「わっ、コラーッ!」

固定してさっきより揉み込まれて、堪らず上体を起こした。

「フフフ」

間違いなく俺の尻を触っていた掌が、身の潔白を証明すると言うように一度上げてから体の上に下ろす。肘を付いて頭部の重みを支えるだらし無いはずの姿勢が様になっている。それはドフラミンゴさんの体が作り物だからなのだろうか。2人を覆うには小さい布団がめくれ上がったベッドの上で目が合う。何ということだ。起きないと決めたのに起きてしまった。ドフラミンゴさんのサングラスの奥が御機嫌に細められてる気がして覗き込む。

「なんか機嫌、良いですね?」
「ちょっと速い回線引いた」

"連携している各所にも大きなダメージがあり復旧の見込みは現在目処が立たないと…"

「あ!そうだ尻!」
「ア?」
「ドフラミンゴさんパンツ穿いてないでしょ、買いに行きますか」
「いらねェ、穿かないようにプログラムされてる」
「えっ」
「蒸れてショートしちまう」
「ええ!大変!」

大嘘だった。
インナー着用するくらいで蒸れるわけがなかった。大体今流通しているボディは完全防水仕様でない物を探すほうが難しい状況だそうだ。そういえば店長は事務所の子に好きなの着せてたし、着せる着せないはパソコンの持ち主の好みで良いらしい。後日大学の食堂でルフィに泣くほど笑われる。
そうやって鈍鈍と時計の針が昼を目指していた。



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「xxx、アイス買わねーの」

半額になったモヤシがやはり気になって野菜コーナーに戻る俺に後ろから声をかける。散歩に出た犬の様に浮かれ騒ぐ事はなく、ドフラミンゴさんは大きな歩幅でゆったりと俺の買い物にスーパーまでついて来た。キョロキョロしたりしない。どちらかと言うと俺の方がソワソワしている。

「あれパソコン、だよね?リアルー」 「めっちゃかっけぇ、どこのだろ」 「背ぇ高〜」

め、目立ってる。

特売日のスーパーにパソコンと一緒に来る。別段おかしいことは何もない。パソコンが人間の代わりに重いもの持ってくれる。若しくはパソコンだけが買い物に来てる場合だってある。しかし、ドフラミンゴさんに買い物カゴを持たせるのは釣り合わないというか似合わないというか、俺の方が段違いに似合う。パソコンが隣に居て、その持ち主がカゴ持ってるっていう異様とされる光景が周囲の人の目を集めるようだ。それにドフラミンゴさんやっぱりカッコいいもんね。

「買いますけど、」
「チーズケーキのやつだろ」

冷凍庫に常備してる俺のハマってるアイスの銘柄を覚えてくれたらしい。立ち止まると膝が伸びて、ドフラミンゴさんのスタイルの良さが際立つ。膝下なっが。女の子の視線を感じるけど割と男の人の視線も感じる。わかる。俺も羨ましい。

「予算が」
「1377円」

買い物カゴに視線をやった瞬間に声が降ってくる。俺が大凡で把握していた、籠の中の現時点の正確な合計金額だ。1個買える!

「話しかけりゃ演算くらいしてやるし、そこらの幼女でもそれはパソコンで出来るって理解してるぞ」

後ろの家族連れのベビーカーを親指で指すと溜息をついて、その親指で俺の眉間を押す。


「なァ俺を使えよ、xxx」


「えと、じゃあこれ、お願いします」

伝説のパソコンは人間みたいに満足そうに笑って、大きな手で気前良く買い物カゴを受け取ると冷凍ケースの方角へガニ股気味に歩いてく。身長との対比でカゴが小さく見える。
思いの外、似合った。




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