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帰宅すると、暗闇の中でドフラミンゴさんがソファから壁のモジュラージャックを睨んでいた。
「そんな暗いところで」
「ブレーカー落ちんだよ」
イライラしてるみたいに爪先が揺れる。何度か落ちたのかもしれない。目を凝らしてよく見るとドフラミンゴさんからコードがコンセントとモジュラージャックに接続されている。あれ電話するやつだよなぁ。
コードの接続端子あたりとドフラミンゴさんのサングラスが薄っすら光っているけれど、アパートの外階段を照らす、蛍光灯の光が差し込む玄関より向こうはハッキリ見えない。電気、電気と呪文を唱えながらなんとかブレーカー下まで辿り着いて背伸びする。台が無いと届かないのはわかってるんだけど暗くて面倒くさいので、こう、足を掛ければなんとかいけないかなと思った。届かない。それを見てたドフラミンゴさんがコード繋ぎっぱなしで歩いてきて、後ろからブレーカーを上げてくれた。背が高いといいなぁ。
耳元で、高い周波数の何かが回るような微かな音がした。
「ドフラミンゴさん、何か、」
聞き慣れない音が急に心配になって背後の背の高いパソコンを振り返ると、きぃんと何かを磨き上げている最中のような音がして、ドフラミンゴさんが上げたブレーカーがまた落ちた。
「フフ、すげぇトコに住んでんなxxxは」
暗闇でドフラミンゴさんの笑い声がすぐ近くからする。コンセントに繋いでいた電源コードを引いて乱暴に抜いてから、ブレーカーのツマミを再度上げる。断線しちゃうったら。向こうの部屋の電灯が瞬きして点灯し、玄関まで照らす。
ドフラミンゴさんの右手が、壁際の俺の頭の上にぽんぽんと置かれてから離れた。子供扱いされている気が。
「ここの回線はウサギとカメで言やァ路肩の木だな」
ドフラミンゴさんがモジュラージャックの前に一度屈んで、こっちは丁寧にコードの接続を外しながら少し不機嫌そうな声で呟いた。
「そ、れって動いてなくないですか」
「ああそんぐらいの速さだ」
電話に遅い速いがあるのか。
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「おーすミンゴ3日ぶり!聞いたぞxxxに朝飯食わされそうになったんだって?」
「あァ」
「わあーもう食べないなら食べないって言ってくださいよーー」
酔っ払いが帰宅してやった。
今日はそんなに飲んでないけど何かと理由をつけて、俺が動く都市伝説に会いに来たかった。
「ふふ、ただいまですー」
歩いたので醒めたかと思ったがまだxxxは回ってるらしい。xxxが両手を前に出すと背の高いドフラミンゴが屈む。それにxxxが、わーい!と言いながら靴履いたままぶら下がった。
「おいxxxそこで吐いたらぶっ壊れるからな」
「んんー」
振り落とさないくせに、首にしがみ付く主人の退行っぷりに飽きれた風に注意してる。変なやつだなぁ!
「平気だぞxxx吐けねーんだ、すぐ寝ちゃうけどな、ししし」
ぶら下がるxxxの靴を脱がしてやると、その間もしっかりと抱きつかれていてやってる。xxxが少し仲良くなってきたと言ってたけど本当なのかもしれない。意味不明によじ登ろうともぞつくから脱がし辛かったがなんとか両方の靴を脱がせた。
「よし、俺も!」
便乗して背中側からでかい背中に飛び付く。
「フッフッフ、重量オーバーだ落ちろクソ麦わら」
「なんだよケチ!全然平気じゃんか!」
酷い格差に一層しがみ付く。スタスタと歩いて行ってxxxを右向き気味にベッドに下ろした。俺を背負ったまま楽々とだ。xxxの友達だから無下には扱わないのかもしれない。自身の代わりに大きめの枕を持たせると安心したのか巻き付いてたxxxの腕が外れて眠っていく。
「なぁミンゴ何のOSなのか教えてくれよ」
「言えねェ」
「お前誰に作られたんだぁ?」
「言えねェ」
「容量は?」
「言えねェ」
「ちぇっ、"わかんねぇ"じゃなくて"言えねぇ"だもんな!やーらし!」
「フッフッフ、てめェはちょっと出来そうだからな、警戒してんだ」
隠してる風の言い回しは、どこまでホントかウソかさえ隠してる。コイツが確信犯な事しかわからない。てか、"ちょっと出来そう"って。褒められて驚いた。
「じゃあ何なら答えてくれるんだ、よ!」
今はxxxの目が無いから放り投げられるかもしれないけど構わない。このやろう、と首が締まるように腕を絞る。びくともしない。
「言えねェなァ」
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「エース、一週間前からのアクセス履歴さらってくれ」
xxxのアパートの階段を降りる途中から、向こうの反応を待たずにでんでん虫型の小型パソコンに一息で喋る。ちゃんと聞こえてる筈だ。
"あいよ、どした?"
履歴くらい数秒でチェックできるだろう。俺の組んだ完璧なファイヤーウォールも積んでる。一件もアクセスされてないのが当たり前だ。でも突破された可能性が今しがた出現した。
「あいつ、俺のことハンドルで呼んだ」
xxxは俺のこと"麦わら"なんて呼ばない。
"……俺に外部からの無許可の侵入履歴はナシだ"
でんでん虫から聞こえるエースの声のトーンが、俺のに合わせて下がる。
強制的に他人のパソコンにアクセスして痕跡も残さない。そんな事が可能なのか。まさかな。クロコダイルが呼んでたかもしれない。偶然だ。
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