異能学園デゼスポワール


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『Chomolungma Boing!』



「静かに、誰か来よる」

 仮令の囁き声の警告に、皆が息を潜める。こつりこつりと足音だけが静かな廊下に反響する。今はただただその場を早く去ってくれる事を願うばかりだ。そう思ったのもつかの間、背後から懐中電灯の明かりがこちらを照らした。

「誰かいるの……あら、いつか見たメンバーじゃない? でも、一人足りないわね」

 姿を認められては仕方がないと、観念したように皆で振り返る。そこに立っていたのは豊満な胸をした、もっと言えばボン・キュッ・ボンッ! な、さらに言うならセクシーな女性だった。ヒロも何度か見た事があるが、名前が思い出せない。
 相手にばれないよう肘で仮令をつついてみれば、答えはすぐに返ってきた。

「体育科の又椿 艶子先生ばい。結城はバレー選択じゃなかったけんあんまし見た事なかろ? おっぱ……ンン、バレーって男子たちに言われとる」
「成程……確かに」

 思わずヒロは艶子の胸元をまじまじと見てしまう。シェアスや翼からやや冷たい視線が注がれるが、これは男子の哀しい性なので許してほしい。

「夜の学校に忍び込んで何をしているのかしら、肝試し?」

 艶子は名前の通り、艶やかに笑った。

「あ、えっとー……忘れ物取りに来て」
「嘘が下手か」
「あらあら、こんな大勢で忘れ物?」

 何とか先生を怒らせないように返事をした仮令の言い訳の下手くそ加減に、春樹が突っ込みを入れた。だが艶子がその場ですぐ生徒指導を始める、竹刀を持った熱血体育教師でなくてよかったとヒロは思った。これなら上手くいけば何とかなるかもしれない。

「あなた達ももう子供じゃあないんだし、しつこく言わなくても分かるわよね。……それより、何も見なかった?」

 “何か”。艶子があの地下室について詳しく知っているかは分からない。物騒なこの世の中の事だし、化け物に関することかもしれない。

「いえ、特に何も」
「そう、よかった」

 艶子は安心したように息をついた。

「あななたち普段は真面目だし、この事は、他の先生達には黙っておいてあげる。停学なんてなったら困るでしょう? 忘れ物取ったら、すぐに寮に戻るのよ。あの、今いない子も連れてね」
「ありがとうございます……!」

 その言葉に、皆が笑顔になる。艶子先生様様である。艶子に深く頭を下げてから、ティーアを探しに行こうと廊下を歩みだす。

「そう遠くへは行っとらんばってん……連れ戻すのは骨が折れそうばい」


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