異能学園デゼスポワール


≫TOP ≫Novel ≫Gallery ≫Murmur

『見知らぬ、包丁』



 実技のない日は退屈極まりない。特段、研修が楽しみというわけではないが、教師たちのお経のような話をずっと聞いているのも、練習問題をひたすら解き続けるのも、欠伸が出る程つまらない。
 そう言えば、前の学校ではよく授業中に、校庭に野良犬が入って来て小さな騒ぎが起こっていたっけ。そんな事を考えながら、ヒロは窓の外に視線を移す。

「は」

 そんなにタイミングの良いことがあるか。
 侵入してきた化け物を、黒髪の小柄な少年が喜々として追いかける様子が、三階からよく見える。というか何者なのだ彼は。
 着ている服が制服でない事は目を凝らさなくても分かる。恐らく彼も櫻木学園の生徒なのだろう。かなり大ぶりな包丁(鉈だろうか)を軽々と振り回し、身軽に跳び回り、化け物を翻弄している。

「この問題を……結城」
「あっ、はい」

 四組の担任であり、数学教諭の中西の言葉で授業へと意識が引き戻される。慌てて立つが、話を全く聞いていなかったため、問われているのが何なのかすら分からなかった。

「四十七……分の……」
「ん?」

 隣から囁き声が聞こえる。声の主を探そうと視線を彷徨わせると、果たして、囁いていたのはシェアスだった。

「……分の五十」
「四十七分の五十です」
「正ー解。そうですね、この問題は……」

 シェアスが言った答えをそのまま復唱する。幸い、中西は気づいていないようだ。安心して再び椅子に座る。

「すまん、助かった」
「ううん、いいの。それよりさ……、明日の研修」

 そう言いかけたところで、チャイムが鳴った。

「じゃあ今回はここで終わり。残った問題は各自解いて来てね」

 授業の後の礼をする。ふと、先程の少年が気になった。窓の外を見ると、もう動かない化け物と、警備員が居た。少年はもう既にいなかった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -