Blue Exorcist | ナノ



14

「ずっと探しておりました。・・・・姫。」


これはやばい。と、私の本能が体に訴えかけた。


「っ!」


背筋をぞわりと這い上がると同時にびくりと体が反応して手を引っ込める。

悪魔のとがった爪が手の甲を引っかき、小さな傷を作る。

手の甲に赤く細い線が浮かび上がるのを見て、私はひどくおびえた。

どうして悪魔は私を姫と呼ぶのだろう。

私は悪魔にとって姫と呼ばれるような存在ではない。そう呼ばれるべきはあのサタンの落胤である燐君だ。

疑問と恐怖の混じった目で悪魔をみれば、悪魔は血がぷっくりと浮かんだ私の手の甲を見つめ、「大丈夫ですか!?」と心配そうにこちらを見上げた。


「大事な姫に傷を・・・!!もうしわけありません。」


勢いよく深く頭を下げる悪魔に私は驚き一歩後ずさる。


「わ、たしは姫、なんかじゃ・・・・」


うまく言葉が出てこなかったけれどなんとか私は言葉を声に出した。悪魔はほんの少しの私の言葉から伝えたいことを汲み取りこちらに笑みを向ける。


「私たちにとってあなたは姫です。・・・奥村燐に次ぐ、サタンのちから の継承者のあなた様は。」


私は悪魔の笑顔に恐怖した。どこまで、知っているというのだ悪魔どもは。


「どうして知っているの。」


恐怖心を抑えて悪魔を睨む。


「知っているのは私どもの仲間の一部だけです。心配なさらないでください。
私どもが知っているのは、ある男から聞いたからなのです。」


「それはだれ・・・?」


「それは教えられません。そういう約束なのです。」


そうだろうと思った。こういう黒幕的存在はいつも巧みに隠れてこちらを傍観し楽しんでいるのだ。


「・・・・でも、私はサタンのちからがあるというだけでサタンとは血のつながりも何もないわ。」


「血のつながりなど関係ありません。我々は、我々の目的を達成させるためにあなた様の力が必要なのです。」


「目的・・・?」


私は悪魔の言葉に眉間にしわを寄せる。

すると悪魔は私の手をもう一度手に取りこちらを意思のこもった強い眼差しで見つめて言った。


「我々の目的は、サタンを倒すことです。」


















外に待機していた祓魔師たちは皆、苛立っていた。

なまえが銀行内へと入っていってから一時間が経過する。

シャッターで店内が締め切られているせいで中の様子が分からないのと、一時間もやけに静かなことが苛立つ原因である。

その中でも特に苛立っていたのは柔造と蝮だ。


「まだかなまえは・・・!」


爪が食い込むくらいに拳を強く握り締める柔造と蝮。

銀行内をじっと睨みつける二人を八百造は見ていた。

いつも衝突してばかりだが、柔造が蝮に結婚を申し込んでからは少しずつではあるが二人の距離が縮まりつつあるのを八百造は感じていた。

今は、仲間であるなまえの存在を心配し、助けにいきたいと心を一つにしている。

そんな二人に、なまえのところへ行ってこいといってやりたいというのが八百造の本音ではある。


しかしなまえが銀行内へと入ってすぐに、開放された人質の言葉に中々手を出せずにいたのだ。

"何かしたらナマエなまえを殺す"

なまえの実力を知っている八百造は、中級程度の悪魔になまえがやられるはずはないと分かってはいる。しかし、もしも、なまえが殺されてしまったらというわずかな可能性に慎重に成らざるを得なかった。

そんな八百造のところに柔造と蝮がやってくる。

今にも噴き出してしまいそうなくらいの苛立ちが柔造と蝮からびりびりと伝わった。


「お父、なまえのところへ行かしてくれ!」


「行かしてください八百造様!」


錫杖(キリク)を構えた状態の柔造と蛇をいつでも出せるように準備を整えた蝮が殺気だった表情で八百造を見る。

その血の気の多さに若いなと、違うことを一瞬考えるほど二人からみなぎる力は強かった。

そんな力に押されそうになった八百造だったが、気を取り直し二人を制す。


「だめだ。」


すると二人は目を怒らせ八百造に鬼気迫った。


「なんでなんやお父!」


今にも八百造につかみかかる勢いの柔造。八百造はあくまで冷静に、柔造に答える。


「聞いとらんかったんか、何かしたら悪魔はナマエを殺すかもしれんと。」


そんな八百造に苛立ったことだろう。こんどは蝮が八百造に噛み付く勢いで言った。


「なまえに限ってそんなことあるわけない!」


蝮のいっていることは八百造も百も承知だ。なまえは強い。中級程度の悪魔にやられるはずはない。

しかし。


「もしもの可能性をいうとるんや。今はナマエを信じて待て。」


もしかすると、という気持ちが八百造にはあるのだ。

なまえを、京都出張所に勤める祓魔師たちを危険にさらしたくない。そう八百造は思っているのだ。

ただ、そんな八百造の考えていることなど、頭に血が上った柔造と蝮には分かるはずもなく。


「お父がそないなこというなら、俺らだけでもなまえのところにいくで!」


柔造がそういうや否や、二人は銀行内へと駆け出していった。


「待つんや!」


八百造の制止の声も届かず、二人は銀行内へと駆け込もうとする。


そのとき。


耳をつんざくような轟音とともに銀行内のシャッターとガラスが吹っ飛んだ。それから一瞬送れて高校生の姿をした悪魔が吹っ飛んできた。

誰もがその光景に釘付けになり動けなくなる。

粉塵が漂い視界が悪くなった中、そこから影がゆらりゆらりと現れた。

全員が今度は影の正体を見ようと目を凝らす。

その場所から近かった柔造達が一番にその影の正体に気づき息を呑んだ。



―――――― それは、全身から青い炎を発した、なまえだった。








青い炎の再来






「なんでなまえが・・・・・?」


その場にいた全員が驚いた。なまえは虚ろな目で男子学生にとりついた悪魔にゆっくり、ゆっくりと歩み寄る。


「ひ、ひぃぃ!!」


恐怖に顔をゆがめる悪魔に彼女は無表情で手を悪魔に向けて上げ、それから悪魔を青い炎で燃やした。


「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


悪魔は断末魔の叫び声を上げもがき苦しむ。その叫び声が止むと炎はきえた。

そこには悪魔が祓われたあとの無傷の男子学生が倒れているだけだった。


「なまえ・・・・」


蝮が信じられない、というような声でなまえの名を呼んだ。

しかしなまえは答えない。虚ろな目で空を見つめていたかと思うと、何かの糸が切れたかのようにぱたりと倒れたのだった。



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