Blue Exorcist | ナノ



14

その日は、私が非番の日だった。

虎屋に滞在している私は、その部屋でぼうっと空を見つめていた。

・・・・やることがない。

京都に来てはじめての非番であるが、何をやっていいのかがわからない。

正十字学園では燐君の炎を操る手伝いだったり、その他の雑用がいろいろあった。(主にメフィストが私をこき使っていたのだけど)

だけど此処では何も頼まれないし、やろうとしたら、女将の虎子さんが「なまえさんはなんもせんで休んどき」といって、私をまるでお得意様のように手厚くもてなしてくれるのだ。

落ち着かず出張所へと行こうとするとなぜか虎子さんは私の休みを把握していて、「休みの日はちゃんと休まんと、いつか倒れてしまうで?」といって休ませる。虎子さんは休みなしで毎日働いているというのに、だ。

だから本当にやることが何もない。いったいどうしたものか。


そうやってぼーっとしていてどれくらいがたっただろう。窓から差し込む太陽の光がまぶしいなと思っていたとき、私の携帯が着信音を奏でるとともに振動した。


「はいナマエです。」


そういって電話に応じれば任務の応援要請が。

やることが見つかったと、私は制服に着替えて急いで任務地へと赴いた。





現場へつくとそこには緊迫した雰囲気が漂っていた。

パトカーも止まっており、警察官も多数いることにこの任務が難しいものなのだということを悟る。


「下一級祓魔師のナマエです。応援要請を受け、今到着しました。」


封鎖された入り口にたっていた祓魔師に中に入れてもらう。

中に入るとそこには驚くべきことに柔造君と蝮ちゃんがいた。


「柔造君、蝮ちゃん。」


「なまえ!」


「どうしたの。今の状況は?」


二人の下へと駆け寄り、状況を聞く。すると二人は緊張した面持ちで説明を始めた。


高校生くらいの男子学生が悪魔に取り憑かれ、強盗をして立てこもっているそうだ。

最初は警察が対応しようとしていたそうだが、警察官の中の数人が男子学生に角と牙が生えているのが見えたと証言したものがおり、京都出張所にこの事件を任されたというわけだ。


「今、その悪魔は立てこもり続けとる。そこの建物や。」


と、蝮ちゃんがその建物を指差す。

入り口以外シャッターがされており、ほとんど中の状況が見えない状態だ。

そしてその入り口から見える中の様子といえば、男子学生が銃を持ち、人質に銃を向けてにたりと笑っている姿。

どうやら弾のストックを持っているようで先ほどから何発も撃ってこちらを挑発しているらしい。

その男子学生に憑いた悪魔は「強い祓魔師をだせ」と言っているらしい。

そのため上級の祓魔師を呼び寄せたが、悪魔は満足せず、もっと強い奴をというわけで私が呼び寄せられたようだ。

でも、どうして私・・・?

下一級祓魔師なんかがふつうこのような任務に呼び寄せられるはずがない。実力があるとすれば上級祓魔師たちだ。

周りには柔造君や蝮ちゃん以外にも出張所から呼び寄せられたたくさんの上級祓魔師たちがいる。

彼らは下一級祓魔師の私をいぶかしげに見つめていた。

蝮ちゃんが説明を続ける。


「ずっと上級祓魔師を呼び寄せとったんやけど・・・
その悪魔が急に"ナマエなまえだせ"て言うて。そんで、なまえを呼んだんよ。」


「どうして・・・?」


「それは私も分からん。悪魔はただ、なまえの名前を呼んどった。」


蝮ちゃんの言葉に私はますます自分が此処に着た理由が分からなくなってきた。そしてその悪魔に対するなぞが深まるばかりである。

どうして私の名を知っているのか。強い祓魔師とは何を指しているのか。私を名指しした理由。

しかし疑問があったとしても今は直接聞くしか知る術はない。

私の中は不安と恐怖がないまぜになって増大し、心臓はうるさいほど音を立て始めた。

私は深呼吸をして自分の中の不安と恐怖をねじ伏せうるさい心臓を押さえつけて今回の作戦隊長である所長のところへと向かった。


「所長。今から悪魔の元へと行き、人質救出、及び悪魔の討伐へといってまいります。・・・・・一人で。」


「一人!?だめだ、それでは行かせない。」


「おそらく悪魔は私以外のものが来れば、攻撃してきます。
私たちには身を守れても、人質たちには身を守る術がありません。
だから、どうか一人で行かせて下さい。」


私の強気な瞳に押された所長は、しばらくうなった後、低くぼそりと分かったと答えた。


「ありがとうございます。」


私はそれから柔造君たちのところへと戻って任務をするということを二人に伝えた。


「なまえ、行くなら私も行くで・・・!!」


「おん、俺もや。一人で行くなんてゆるさへん・・・!」


「悪魔は私を呼んでるの。もし私以外の人間がきて、悪魔を刺激したらどうなるか分かるでしょう。」


「「・・・・・・」」


「・・・いってくる。」


「なまえっ・・・」


大丈夫と私は笑って、悪魔のいる銀行内へと向かった。

入り口に立つと、銃をおもちゃのように手の中で遊ばせていた高校生に憑いた悪魔がにたりと笑い、手招きした。

私は銃のホルスターに手をかけ、慎重に自動ドアの前に立つ。

自動ドアが音を立てながら開き、私は一歩、銀行内へと踏み込んだ。

悪魔は未だにたにたと笑っている。攻撃するつもりはないらしい。


「ナマエなまえよ。」


悪魔を睨みつけ名を名乗ると、悪魔は「奥へ。」と信じられないほど恭しく私を銀行内へと導いた。

銀行内には十名ほどの人質がおり、彼らはガムテープを目に貼り、目隠しをされていた。


「おら、全員立て!」


悪魔がそう叫ぶと人質はよろけながらも立ち上がった。手足ががくがくと震えている。

目の前が真っ暗で何も見えないせいで余計恐ろしいだろう。


「全員ガムテープをはがせ。」


全員が立ち上がったのを確認した悪魔にそう命令され、ガムテープをはがした彼らは、目を開けたときまぶしさに顔をしかめながらもほんの少しだけほっとした顔をした。


「これから、お前らを解放してやる。ただし、外にいる連中に伝えろ。
"もし何かしたら、ナマエなまえをぶっ殺す"ってな。
いいな。分かったらいけ!!」


悪魔は天井に向かって銃を発砲すると人質を追い払うかのようにしっし、と外に追い立てた。

人質がいなくなり、しんと静まり返った銀行内。


悪魔は全員がいなくなるとふぅ、と一つ息をつき、それから私のほうをみると私に一歩近づいてきた。

一瞬攻撃しようと銃を取り出そうとしたが、悪魔からは不思議と殺気が感じられず、思いとどまり警戒を強めるだけとした。

悪魔はにたにたと下卑た笑いを一変させ、急に真剣な面持ちになる。

より一層私は警戒を強めたが、悪魔は信じられないことに急に跪き、私の手をとったのだ。


「ずっと探しておりました。・・・・姫。」


悪魔のその一言に、私は戦慄した。




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