五万打 | ナノ
愛生きて綿々と2


ミツバチが運ぶのは、花の蜜だけではない。
神田さんがもたらしたのは、愛情以上のものだった。
月光が優しくそそぐあの夜が、新しい生命を運んだと気づくのに、それほど時間はかからなかった。私のお腹の中に、赤ちゃんがいる。

赤ちゃんの存在を知ってから私は一つ、決意した。
赤ちゃんの存在を、ばあや以外の誰にも知らせないことである。

「お嬢様・・・本当に、そうなさるのですか?」

「ええ。」

「ですが、おじいさまにはなんと、」

「ばあや。」

私は少し、強い視線をばあやに向けた。ばあやは心配そうな視線を俯かせる。

「普通だったら隠し通せるものではないと分かってる。もしかしたら、神田さんには話さなくちゃいけなくなるかもしれないけれど・・・私は、おじいさまには隠し通せると思っているの。」

「もしかしてあの男にも隠すつもりですか?」

ばあやは驚いている。私だったら、すぐに神田さんに報告すると思っていたのかもしれない。私は最初、すぐさまそうするつもりだった。
だって神田さんは、このお腹の子の父親なのだから。

「・・・今まで、私たち二人が不自由なく暮らしても、お金には困らなかったでしょう。それに贅沢をしすぎていたと思うの。高価なものを買ったり、外に食事に出かけたり・・・そういう贅沢をやめれば、子供を養育するお金は十分あります。きっとおじいさまにも頼らなくてすむから。」

私の両親がおじいさまと折り合いが悪かったために、私はおじいさまとは疎遠であった。時折、おじいさまから遣わされた人が来て、生活には困っていないかと確認し、生活費をもらうくらいしか、おじいさまとの接点はない。
きっと、子供ができたと知ればおじいさまは私を心配し、色々と世話を尽くしてくれるだろう。しかしおじいさまは優しい反面、貴族としての気品や礼節を重んじる人だ。縁談を断り続け、結婚もしていない貴婦人が身ごもり、その父親に子供の存在を知らせないとなると、きっと激怒するだろう。
知らせない方が、いい時もある。

「それは、言わない理由にはなりませんお嬢様。」

ばあやは話をそらそうとした私にきつく言った。私は観念して素直に言い始める。

「・・・神田さんは、数週間に一度訪れるか訪れないかだから・・・赤ちゃんが生まれても一緒にいる時間は本当にごくわずかでしょう?それに、実はね、ばあや・・・いつも私、神田さんのこと待っている間、怖いことを考えてしまうの。神田さんが、どこかで命を落としてしまうこと・・・次はいつ来るんだろう、もう一生来ないんじゃないか、ってそんなことを考えてしまうの。この子には私のように親を亡くすことで悲しい思いをしてほしくない。私はこの子のことがもう、神田さんと同じくらい愛しいの。だから私はこの子に、父親がいると知っていながら会えないことでさみしく思ってほしくないし、極端な話、失うことの悲しみを、早くに知ってほしくない。」

「お嬢様・・・」

ばあやの同情の念を含む声音が、少しだけ神田さんへ向けられている気がする。二人は、よく言いあうけれど、やっぱりお互い、憎み合いきることはできないのだろう。

「だからそうします。ばあや、おじいさまの体の調子が悪いからしばらく本邸へ帰ると神田さんには伝えるつもりなの。だからそのように振る舞って。」

「わかりました。」

ばあやは私の頼みだから頷いてくれたけれど、それでも納得をしたわけではなかった。

お腹が目立たないうちに、神田さんにきちんと嘘の事情を話した。神田さんは分かったといって、額にキスをした。私たちの逢瀬は子供が生まれ、落ち着くまでの間一切なかった。
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