五万打 | ナノ
愛生きて綿々と1


受け入れ、ひとつになること自体がどれほど満ち足りるものか知らなかった。
今までいろんな人に恵まれて、愛情をもらい、幸せに生きてきた。不幸なことがあっても、寄り添ってくれる人の支えで、立ち直った。皆いい人で愛してくれるし私も愛している。
でも今まで人を愛してこなかったのではないかと疑うほど、彼は、神田さんは違った。女として愛を受け、女として彼を愛するのは、今まで気づきもしなかった欠けた部分が満たされた。

「あのばば・・・ばあやを丸め込むなんて、大したもんだな。」

屋敷の私の部屋で神田さんが意地悪そうに笑いながら頬へ手を伸ばした。

「丸め込むだなんて、そんな言い方はひどいですよ。」

ただ神田さんが屋敷に泊まる許可をもらえるよう話し合いをして、私の一生懸命な気持ちを伝えただけなのに。わざと意地悪な言い回しをする神田さんに、じゃれるように私は言い返す。

「一日だけでもあのばあさんがいないのは、都合がいいんだが、な。」

「なんです?」

「この屋敷に二人っきり。名目上ばあやの代わりの守り役だが、お前でもわかるだろう。」

「殿方を部屋に招き入れることがどんなことかは百も承知です。貴婦人としての教育は受けていますから。」

神田さんは、私の言葉になにか思うところでもあるのか、眉がわずかに動く。

「寝室に一緒に入る方は、心に決めた方ですよ。」

「・・・そういえば、縁談の話が来ていると聞いた。」

神田さんには一度も伝えたことがないことを言われ、私は固まる。きっとばあやが伝えたのだろう。
神田さんは、カーテンの隙間から綺麗な満月の光が差し込む窓へと歩を進め、ゆっくりとカーテンを開けた。

「ま、貴族は普通貴族と結婚するのが当たり前だろうからな。」

神田さんを少し斜め後ろから眺める。いつも色白な肌が、月光を受けて薄ぼんやりと光っている。いつもははっきりとした神田さんの存在が、今夜ばかりは淡く、そのまま薄くなって消えてしまうのではないかと思った。
私は後ろから神田さんに抱きついた。

「どうした。」

「神田さんは、気にしないでしょう?いくら、ばあやが何を言ったって、私がどのような立場であったって、気にしないでしょう?」

神田さんが私から離れてしまうのではないかと思って、急に怖くなった。エクソシストとして日々危険な毎日を送る彼を失ってしまうような怖さではなく、私の置かれた状況によって神田さんが自ら離れていってしまわないか怖かった。

「ああ、気にしない。」

「これからもずっとそうやって無視していればいいんです。だって、私は神田さんと離れたくない。神田さんと出会う前も、十分満たされた世界だったはずなのに、私はもう神田さんと出会う前の世界なんて想像できないんです。もう、神田さんがいなくなったら、大きな大きな穴があいてしまいます。私は、神田さん以外なんて、考えられないんです。ずっと、寄り添っていきたい・・・」

知らず知らずのうちに涙が溢れていた。神田さんにこんな風に思いを伝えたのは初めてだった。

「愛しています。」

もう一粒、涙が溢れおちる。
神田さんが私が抱きついていた手をやんわりと外して私に向き直った。

「俺も、お前を愛している。」

抱き寄せられた腕は、変わらずたくましい。
ずっと離さないでいてほしい。

神田さんの瞳はとても情熱的だった。そこからゆっくりと視線を降下させると、形が良い唇が目に留まった。唇にまるですべての感覚が集まったかと思うくらい、唇に集中していた。

ほんの少し触れると途端にしっとり引き合う唇は甘美で幸福感をもたらした。

ゆっくりと抱きあげられ、ベッドに下ろされる。ドキドキとして心臓を守るみたいに両手を胸の上に重ね合わせていた。
神田さんは私の額へと唇を落としながら、手を私の手に重ねた。頬へキスをするときに片手ずつ手と手を絡め、唇を啄みながら両手を開いていった。キスは続いた。神田さんは私の上に重くならない程度に乗り、両側に手をついて、キスをしていく。いつの間にか首元にあるリボンを緩め、背中の服を止めている紐も緩めて上半身の衣服をくつろげられていた。

「あ・・・」

恥ずかしさで顔を赤くすると、頬に手の甲を滑らせ、神田さんが「きれいだ」と囁く。さらに顔を赤くした。唇へのキスが再開される。先ほどまでは唇を閉じていたのだけれど、柔らかい唇に次第に緊張がほぐれていって、唇に隙間があいた。すると神田さんから舌が優しく伸びて、私の唇を優しくなでた。その舌をいざなうように私の唇は開いていく。舌が入り込む。絡み合う舌の気持ちよさに、へなへなと力が抜けて、自分の体も心も開いていく感じがした。

「ん・・・」

鼻から息を吐き出した時に漏れた声が、自分のものではないかに思えた。

神田さんも上半身の衣類を取り去り、肌をあらわにした。私よりも滑らかそうに透き通った輝きを見せる、たくましい肌には大きなタトゥーが入っている。

「怖いか?」

首を振った。ただ、神田さんを蝕むように広がっているのが少し不吉な気がしただけだった。神田さんは追及せずそのまま続けた。
キスをしながら、乳房をもみしだかれる。神田さんの手が、私に触れているのがたまらなくうれしいし、たまらなく恥ずかしい。微弱な、痺れにも似た快感を乳房をもみしだかれるたびに、熱い手がその頂点を動くたびに感じた。
脚が寄り添うように触れていて、乳房に触れていない手は私の腕の外側で、腕の下半分は私の上半分と寄り添うように触れている。体が密着しキスでより深いところにまで侵入されている。私は神田さんの体温に包まれていた。それはとても安心できる温度だった。

私だけ生まれたままの姿になると、神田さんはじっくりと私の体の線を確認していく。脇から下を指先でそっと撫でられていく。それだけで身をよじりたくなるほど恥ずかしく、ぞくぞくと感じていた。

わずかにびくびくと体を反応させていた。いつの間にか手が最初のように胸の上でまとまっていて、神田さんはそれに気が付くと、またゆっくりと外した。

「恥ずかしがらなくても、いい。」

「そ、そういうわけでは・・・つい・・・」

「そうか。ならいい。」

「あの・・・」

とても余裕がある様子の神田さんが気になって、私は質問をした。

「こういうご経験が、あるんですか・・・?」

「あっ・・・あるわけない。」

私の言葉に驚くように目を見開き、それから落ち着いて答える神田さん。ほっとして、私は神田さんの首に手をまわして抱き着いた。神田さんは私の重みで自身を支えきれず、私に密着する。

「人の素肌って、こんなに気持ちよくて、安心するのですね。」

ふと、神田さんの心臓の動きに意識を集中したら、私と同じくらい強く早かった。なんてポーカーフェイスなんだろう、と驚くとともに、言葉ではなく事実として神田さんに余裕がないのだと分かって、愛しくなる。

「ああ。」

抱きしめている間に、首筋へのキスが始まった。神田さんはそうしている間に手を後ろに回して丁寧に私の手を緩めて、体と体の間に隙を作った。

「嫌なこともあるかもしれない。もしかしたら、俺は我慢できないかもしれない。いいか?」

「良くなかったら、もっと前に言ってます。」

「そうか。」

少し起き上がって、神田さんの頬へキスをあげた。初めては痛いと聞く。それでも、神田さんと一つになりたかった。

「それじゃあ、触るぞ。」

「はい。」

神田さんは丁寧に丁寧に私の体を開いて、お互い初めてで不安があるはずなのに、私のことを一番に考えて優しくしてくれた。私は、全身で愛されていた。私もそれを受け止め、全身で愛した。

蜂蜜のように甘く輝く美しい時間だった。
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