ぐるぐる眼鏡 | ナノ
仕事愛好者の本音

その作戦は、驚くべきことに、コムリンEX Returnが関連していた。キラとコムイによって復元、ある意味生き返らせられたロボットである。ただしキラの意向によりReturnは命令によってのみ動くようプログラミングされていた。過去のコムリンのデータや暴走を、仕事の傍ら、いつの間にやら入手分析したキラによる解決案であった。そしていつそんな時間があったのかわからないが、キラはコムイとともにコムリンEXをReturnとして復活させたのであった。科学班というのが忙しいのか忙しくないのか俺には疑問である。キラは除外。あいつは異例だ。

肝心な作戦内容だが、これは単純にコーヒーに睡眠薬を混ぜ、科学班員をReturnの手で部屋へと運び、科学班フロアへの立ち入りを一切禁じるというものだった。キラとコムイ以外の班員全員が強制休暇をとらせられたのである。

「たまにはみんな休暇を取ったほうがいいものね。」

と証言したのはリナである。リナは睡眠薬を混ぜる役割を果たした。

「最近の班員の皆さんは、作業効率が落ちていたので、この方法のほうが良いと判断しました。」

この証言は言わずもがなキラだ。奴はこのことをコムイと相談していたようだ。コムイは休めない代わりにコムリンの再生産、さらには安全化を約束された。そしてそのコムリンEX Returnはそのまま有効利用されたというわけである。といっても後日コムイも半日だけではあるが休みを取った。

「キラ君には本当に感謝だよ。一週間かかるはずの自分の仕事を土曜日に終わらせて、全班員の仕事の補助のための仕事も1日で終わらせたんだから。」

コムイの証言には、キラに対する賞賛と感謝が含まれていた。ひとつ俺が気がかりだったのは、そこにキラの疲労に対する心配がなぜないのかであった。

ところで本日は日曜日だ。科学班フロアにはポツリとキラがおり、今日はひたすらと白紙に計算式やら図やらを書き込んでいる。ちんぴんかんぷんなので理解するのはあきらめたが、書き終わった白紙の行方を見ていると、綺麗に分類されて積み上げられていっているので、おそらくコムイのいう、班員の仕事の補助のための仕事なのだろう。

「要件は。」

と、キラ。

「任務の報告書だ。」

俺は速やかに紙をキラに手渡す。
コムイに報告書を一通り読ませたところ、キラのところへ持って行くよう言われた。任務の報告書というのはひとつひとつ科学班員によって分析されている。今までコムイに渡せば自動的に科学班へ行っていたが、今日は報告書を取りに来る班員が一人もいないので、俺に持って行かせたというわけだ。

「わかりました。後ほど分析します。」

キラは報告書を受け取ると、白紙の束の隣にそれを置いた。それからまた自分の仕事へと戻る。

「・・・お前も休んだらどうだ。」

さすがにいくらこいつであろうと、班員のように休みを取るべきだと柄にもなく心配した俺は声をかけてみた。キラはコピーインクと化した手を休める事なく答えた。

「ええ、日付が変わる時には休みます。そういう風に計算して働いていますので。」

「そうかよ。」

「はい。さすがに私も人間なので。」

「科学班のやつらはお前に感謝するだろうな。」

俺はおそらく労いたかったのだと思う。科学班員としての仕事を天職だと言い切ったこいつが、他の班員のために今回の作戦を行ったことや、以前薬を開発したことを。

俺は感心していたのだ。4歳も歳が下の子供がなんてことなさげに素晴らしいことを成し遂げていることに。

「いえ、感謝するのは私です。」

「?」

「科学班員は全員、自分の仕事に誇りを持っています。本来ならば私のこの補助のための資料なども作ってもらうことすらいやかもしれません。自分の仕事に手を出されたことに近いでしょう。だから私はこの仕事をさせていただいていることに感謝しています。彼らの手伝いができることに。」

たった十四の少女から聞いたとは到底思えない言葉に俺は言葉を失った。キラは淡々と謙虚に仕事を行っている。誰かのために。
こいつを女神だ天使だと言った奴は、当たっているのかもしれない。見返りを求めることもせず、謙虚に、誰かに恩恵をもたらす神々しい存在。

容姿はいいが、残念な性格をするキラのことを、単純に残念なやつだと決めつけていた。しかしこいつは、そうじゃない。誰かのためにと動く献身的なやつであったのだ。

表情の下に隠れた天使のような精神にきっとキラ信者は気がついていたのだろう。

俺は今、ようやく、気がついた。

「ただ、彼らの仕事全てを私のものにしたかったのが本音です。」

・・・いや、気がついていない。

「最初は班員全員を休ませて、その仕事全部くれって言われたんだけど、流石にそれは彼女だけの負担になるし僕が少しずつ条件を広げていったんだ。キラ君、なんて言ったと思う?『科学班員は休める、私は欲求を満たせる。コムイ・リー室長はコムリンEXを蘇らせることができる。利害の一致ではないでしょうか。』だって。仕事をするのが欲求を満たす行為っていうのがまず驚きだけどね。」

のちのコムイの証言である。

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