普段人間が眼鏡を外す時がどういう時かはわからない俺にとって、協力などといってもこれっぽっちもできるわけがない。そのことに気がついたのは1度目のトライに失敗した時である。
「なんか、あのワイパー最強じゃね?」
1度目はキラの眼鏡に汚れをつけるというもの。ラビが用意したこびりつきやすそうなどろりとした液体を遠くから投げつけるというシンプルな作戦であった。キラのワイパーは一拭きでそれを拭い去ってしまった。
さらにキラは自分が汚れをかぶりやすいことを学習したためか、自身の白衣の繊維を作り直し飛び散った液体をつるりとふき取れるようにしていた。液体を投げつけたのはラビで、リナには見つかってしまったがラビが事情をでっちあげて説明し難を逃れた(事情は、ラビが俺に悪戯をしようとして気づかれて避けられたところ偶然キラに当たったというもの)(だいぶ苦し紛れである)。
「そのようだな。」
俺はキラの素顔を見ようと奮闘するのが馬鹿馬鹿しいと気が付いて、その感情をにじませながらラビに返事をする。
「あれ、なんかもうやる気ゼロさね。」
「馬鹿馬鹿しくなってきた。俺はやめる。」
自分の思っていることをそのまま伝える。
「えー!?」
不満そうな声を出してラビは俺の腕にしがみついた。
「するって言ったじゃんか、男に二言はないさ!」
「やめるっつたらやめるんだよ!付き合ってられるか。」
腕を振りほどこうとするも、意外と力強く握られていて解き辛い。
「頼めばいいだろ、素顔見せろって・・・!!」
「普通に頼んだら面白くないさ!それに可能性低いじゃんか!」
「くそっ、離せ!」
「せめてあと一回!」
あまりのうざったらしさに俺は折れた。
「・・・・くそっ、めんどくせぇ。」
手を振りほどこうとするのをやめて、俺はため息をつく。目の前で喜んでいるラビがうるさいので黙らせた。
「じゃあ次はどんな・・・ってユウ!?」
俺は科学班内に踏み入った。次の作戦を考えるなどという面倒なことをするより、直接頼んだほうが断然早い。面白くないと脳みその小さい兎はいうが、面白いか面白くないかは眼鏡をはずした後にあるはずだ。
「おいキラ。」
一定の速度で書き物をしているキラに俺は躊躇なく声をかけた。
「なんでしょうか。ブックマンJr.が投げた液体によりほんの数秒遅れが生じているので手短にお願いします。」
「素顔を見せろ。」
液体の下りで少し罪悪感が沸いてしまったが、実際に実行したのはラビだと自分に言い訳をして、キラに素顔を見せることを要求した。
「それは私が現在己を偽っているという確証が神田ユウにあるから正体を現せという意味でしょうか。それともこの眼鏡をはずし、ありのままの顔を見せろということでしょうか。」
「後者だ。」
「では、数秒仕事に遅れが出てしまうので、神田ユウが外して確認してください。」
あっさり。承諾の返答が返ってくる。俺は廊下に立ったまま様子を見ているラビに、視線で見たいのか見たくないのかと問いかけて返事を聞かぬうちにキラの眼鏡をはずした。
結果。
「て、天使・・・!」
これはキラの周囲にいた科学班員から。
「ストラーイク!」
これは言わずもがな、万年恋愛兎から。
「・・・・」
そしてこれは、俺。目を見開いて固まった。
「そろそろ返してもらえますか。」
俺はキラの要求で石化を解かれ、彼女に眼鏡を返した。
俺はキラへの認識をさらに強化せざるを得なかった。
こんな容貌を持ち合わせておきながら、瓶底の眼鏡をし、しかも生活能力ゼロで性格はほぼアンドロイド。こいつは、完全に残念な奴だ。
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