これまでキラに苦しいほどの愛情を抱いていた。キラが苦しんでいる姿を見たくない、大切に、幸せにしたい。それが俺のキラへの気持ちだった。
キラに対し、肉体的欲望がなかったとは言わない。しかし、そんな思いより、ただキラに安寧を与えたい気持ちが強かった。
だから、キラがうなじを晒した瞬間こそが、本当の意味で、初めてキラに対し劣情を感じた瞬間だったと言える。
「眠れないのですか」
俺は、先ほど感じた劣情を抑える術を半ば失いかけていた。
いつものように、キラを懐に入れて眠ろうとしても、キラの髪や体から香る匂いや、わずかに触れ合う体、服越しに感じる熱から、男ならば当然考えてしまう想像を消せずにいたからだ。今までこんなことを考えたことはなかった。しかし一度劣情がはっきりと現れると、もう、どうしようもなかった。
「もう少ししたら眠れる」
このまま身勝手に行動を起こすわけにはいかない。冷静になって考えてみると、そもそも14のガキを対象としているだけで、俺の性的嗜好が疑われかねないのだから、少しでも手を出せば確定してしまう。それだけは避けなければならない。
今の俺に必要なのは、ひたすら心頭滅却することだった。キラに背を向けて寝てもいいのだが、キラはきちんと眠りに着くまで、俺と向かい合わせを好む。それを知っていてわざわざ向きを変えるのはかえって怪しまれる。
「そうですか」
キラが眼鏡を外していて見えないながらにこちらをちらりと見上げる。今日は月が雲に隠れて、月光があまり入り込まないが、薄暗くても、ある程度キラのことは見えた。今こちらを見ているとか、どんな体制なのかとかは、わかる。向こうもその程度はわかっているのだろう。
「……なんだよ」
じっと見上げてくるものだから、耐え切れなかった。キラはなお俺の方を見上げてくる。
「なんでもな……くありません」
「は?」
「神田ユウが眠れないと私も眠れないので私が眠れるようどうぞ速やかにどこかで処理して来てください」
そこまで言われて、ようやくなんのことを言われているのかわかった。こんな14のガキに指摘されたことに、羞恥と、それを隠そうと怒りが込み上がる。
キラは馬鹿だ。俺がキラに欲情していることなど明らかであるのに、必死で我慢しているとわかっているはずなのに、何を思ってわざわざ指摘するのか。せっかく我慢していた欲望の堰が切れそうだ。
「……お前、マジで、ふざけんなよ」
息だけで話す。キラが、驚いたように体を震わせた。俺は、向こうから表情など見えるはずもないのに、握り潰すように自分の顔を掴んだ。羞恥、怒り、欲望がぐちゃぐちゃだ。俺は振り切るように起き上がる。
「あの、神田ユウ」
キラが声をかけるが、俺は無視してベッドを降りる。
「神田ユウ」
もう一度キラが俺のことを呼ぶ。なぜか、引き止めたそうな、そんな声だった。
キラが起き上がり、俺の服の裾を引っ張るので、視線だけ、キラにやる。
ちょうどその時、部屋に月光が降り注いだ。キラの表情や、その頬の色が明らかになる。
キラは、顔を赤らめていた。唇をきゅっと閉じて、こちらを見上げている。眼鏡をかけていないキラの瞳は、雄弁だった。
声は無機質なほどだったというのに、瞳も、頬の色も、なぜ、こんなことになっているのか。少し泣きそうに目を潤ませて、切なそうに、俺にすがるような目でこちらを見ている。
キラの瞳をじっと見つめながら、そっと俺の服を掴んだキラの手をとった。キラは、熱っぽい目で俺の方を見つめながら、俺の手を軽く握った。
「言い方が、よくありませんでした。本当は……初めて見たものに驚いて、平静を保とうとして、なぜか、心臓がドキドキとしてしまって」
キラの言葉を聞いて、抑えられるはずがなかった。俺はキラの表情に、その言葉に、期待と欲望を掻き立てられ、箍を外し、キラの手を引っ張り、体を強引に引き寄せた。
「っ……」
優しくなんてできなかった。荒々しく口付けた。目を見開いたキラを薄眼を開けて見つめる。キラはしばらくするとゆっくりと目を閉じて、俺を受け入れた。
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