ぐるぐる眼鏡 | ナノ
薄桃と月光の肌

キラを好きになって。

あいつが笑顔でいてくれるために生きたいと思うようになった。全部俺のものにして、俺の手であいつの笑顔も、幸福も生み出したくなった。そして、俺がそう思うのと同じことを、あいつにも思ってほしくて、俺はあいつのものになりたくなった。

あの人のことを、忘れたわけじゃない。俺は、おそらく、あの人もキラも同じように大切だ。
あの人に会えたときどちらを選ぶのかと聞かれても答えられないくらいに。

あいつが苦しい思いをせずにいられるなら、恋人のふりで満足するべきなのかもしれない。しかし俺の心の深くは、煮えたぎるように熱い。



*



俺が教団で過ごす日は、毎日のようにキラと添い寝をすることになっている。これまで続けてきたことを、惰性で続けているだけだ。お互い、眠るときの互いの存在というものに慣れきっていた。

必然と俺の部屋にはキラが眠るための物が増えていった。例えば、歯ブラシ。眼鏡拭き。個人的な薬品作りのための実験器具。

今まで殆ど何もおいてこなかった俺の部屋は、キラの存在を感じさせるもので溢れている。

枕もひとつ増え、寝返りをうっても必ず枕の上に頭があるようになった。だからといってキラは枕は使っていない。俺の懐辺りで膝を抱えるように寝ているのだ。意味がない。

これまでキラは、大浴場で風呂を済ませて俺の部屋に来ていた。リナが世話をしてやっているからだ。あいつがいないときは、キラは風呂に入らない。一日、二日程度ならば気にならないから許している。

ただし、五日となると話は別で。

「今からですか」

「今からだ」

リナが任務へいって五日目の夜がはじめてやってきた。
放っておくと風呂に入らず仕事のために睡眠を確保しようとするキラに、俺が風呂にはいるよう命令した。

キラはリナがいないから大浴場での入浴を渋っている。

「明日、リナリー・リーは帰ってきます」

「今日だ」

「………わかりました」

厳しい口調で俺がいったので、キラは渋々従い、俺の部屋を出ていった。
今の時間は、9時半で、キラからすると今から風呂にはいるということは大幅な時間ロスだった。それでも、添い寝をするのだから、俺に配慮して当然だろう。

キラは15分程度で戻ってきた。
早い、と思ったのもつかの間、その理由はキラを見ればすぐにわかった。

「お前、髪乾かしてこいよ……!!」

「私の睡眠時間確保の為にも、神田ユウに依頼したいのですが」

「俺はお前の世話係じゃねぇっつーの」

「では、このまま就寝してもよろしいでしょうか」

「よくねえ」

「ならば、お願いします」

ほぼ毎日添い寝をするようになってから、キラが徐々に俺に対して図々しくなっているのは気のせいだろうか。
しかしもしそうだとしても、キラがこうなったのは、俺が、口ではキラに対して文句を言いつつも、キラからお願いされると、結局は頼まれてしまうからということもあるのだろう。

「あっつ」

「ある程度離して風を当てることをお勧めします」

で、結局俺はヘアドライヤー片手に、キラの髪を乾かしてやっている。
このヘアドライヤーは、以前、コムイが試作段階で断念したものの、それをキラが完成までこぎつけた代物で、完成依頼、ある程度量産され、とくに教団内の女共が重宝しているという。俺は使うのは初めてで、その熱風と騒音にしかめっ面である。

しかし、みるみるうちに乾いていく髪が手触りでわかるというのは、面白いもので、しかもキラの髪は、リナが手入れをがんばっているのか、なかなかにつやつやとしているから、触っていて心地がいい。

キラの髪は短いので、あっという間に髪を乾かし終えた。後半は眠たそうに頭をゆらゆらとさせていたキラは、ドライヤーを切った瞬間に、少しばかり覚醒する。

「ありがとうございました」

「次はないからな」

とは言ったものの、もし次に頼まれてもするかもしれない。そんな予感がした。

「ヘアドライヤーというものは、やはり熱いですね」

熱い熱いとキラが首元を軽く手で仰ぐ。

「首元、涼しくしとけ」

「ああ、そうですね」

ちょうど肩より少し上までキラの髪はあり、余計暑かろうと思って、俺は言ったのだった。
しかし、俺は自分のこの言葉を後悔することになる。

キラが、髪を手で持ち上げ、うなじを晒したからだった。見た目にもわかるが、風呂上がり、また、ドライヤーをしたあとということもあって、首筋に小さな汗の粒があって光っていた。それは、14歳という、開花直前の蕾のような時期の女の、内から漏れ出る色気を放っていて、不覚にも、俺の内から情欲の獣が飛び出そうなほどだった。

「? どうかしましたか」

「別に」

俺は荒れ狂う内心を必死で皮下に押し込め、普段通りで取り繕った。幸い、キラは人の機微というものに疎く、気づかれた様子はなかった。

「…………」

キラが不思議そうにこちらを見つめていたが、気づかれてはいないと、思う。

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