任務から帰ったのはちょうど夕食時だった。
教団を空けたのはちょうど四日間。騒がしいやつが一緒だったせいで、疲労は一週間分だ。
報告書はコムイに。それからキラの様子を見に行く。今の時間帯だと何かしら食べている頃だろう。もしくは食堂へいっているかもしれない。
キラは普段、自分のデスクで食事をとる。片手で食べることができるサンドイッチなどを食べることが多い。しかしわざわざ食事にいくときもある。化学班フロアにまで持っていくことが面倒な汁物や、料理の香りが強く周囲に影響を与える食事が食べたくなったときだ。
先に科学班フロアから見に行くと、すぐにキラを見つけることができた。キラはコナーから世話を受けて、サンドイッチを食べている。左手で食べながら右手でさらさらと書き物をしている。書き終わるとそれをじっと見つめ直しながら、立ち上がり、別の班員に渡しにいった。
そしてそこで俺に気づいた。
「ああ、帰ってきていたのですね」
キラはそれだけいって残り一口のサンドイッチを口のなかにいれて自分のデスクに戻った。俺はキラのデスクへついていく。
「どうでした、任務は」
「あいつとはもう組ませるな」
「でも効率はよかったはずです。今回、移動が多い任務だったでしょう」
「確かにあいつのお陰で移動は早かったな」
「そういうことです」
キラはいつもより早いスピードでさくさくと仕事を進めている。俺が近くにいるから、暇なら手伝えと、出来上がった紙を届ける仕事などもさせられた。別にキラと居られればそれでよかったので、淡々と引き受けた。
「あ、夕食まだですか。よければサンドイッチどうぞ」
キラが途中サンドイッチを分け与えた。皿には6個残っている。
「まだ6個も残ってるじゃねえか」
顔が少し青白い気がしたので、食べていないのだろうと俺は疑いの気持ちを込めた。
「コナー・スミスが12個用意したんです。6個は食べましたが、もうお腹に入りません」
しかしキラはもう6個も食べたという。嘘をいっている感じではなかった。
「そうか。ならもらう」
いつもは蕎麦だが、コナーが用意したと言えど、キラからもらうのは悪くない。俺は6個全てすぐに平らげた。
コナーはキラのことを気遣いすぎている気がした。
キラはこの日、7時半に仕事を上がった。いつもは9時なのに、今日は早い。
「お疲れ様です。それじゃあ」
と班員に挨拶して、キラは一旦自室へ帰るといって去っていく。
「よく寝るんだよ」
とジョニーに声をかけられていた。
「どういうことだ」
俺は気になって、ジョニーから話を聞いた。
「ここ四日、キラ徹夜だったんだよ。仕事してたかったみたい」
「そうか」
コナーが心配していたのは、そういうことだろう。
「実はさ、神田が危ないって聞いたときも、お見舞いに行くまでずっと徹夜で仕事してたんだ。見かねた班長が、心配なら神田のところに見舞いにいけっていって、帰ってきたあとはまた普通だったんだ。だからもしかすると今回も心配で眠れなかったのかもね」
「…………」
驚いた。一切顔に見せないから、ジョニーから事情を聞かなければまったく気づかなかっただろう。
「よっぽど責任感じてるのかな」
ジョニーが言うようにそうだとしたら、安心させなければならないだろう。これからまた俺や他が怪我をしたとき、よりひどくなりそうだ。
キラは教団員としては経験が浅い。戦争であれば怪我を負うことも、最悪死ぬこともありうると覚悟ができてない。
「俺も休む」
「あ、うん」
俺はすぐさま自分の部屋へ帰り、寝仕度を済ませ、キラを待った。キラはいつもより早めにくるだろうと考えたからだ。
八時になると、ドアがノックされた。やはりいつもよりはやい。
ドアをあけると、キラがいた。
「神田ユウも、任務帰りで疲れていると思い早く来ました。おじゃまします」
そういってキラは部屋へ入って、眼鏡をはずしてそのまま布団へはいった。俺はあとからついていって、一緒に布団にはいった。素顔を覗きこむと、不健康そうな顔をしているように見えた。ゆるく抱き締め、安心して眠れるようにしてやる。
「……この四日、ずっと、こうすることを考えていました」
これが恋心からくる言葉だったらどれ程よかっただろうと思いながら話を聞いた。
「神田ユウの、体温や匂い、安心します」
キラは俺の服の上から、以前負傷した場所にそっと手を当てた。もう跡一つのこっていない。でもキラはそこから死の感触を得ている。
「四徹なんだろ、ちゃんと眠れ」
俺はキラの手をとって、心臓の拍動を感じる位置に引き寄せた。
しばらくするとキラは寝息をたてていて、それを確認してから俺も眠った。
添い寝の関係からどうにか変わりたいと思ってはいるものの、キラが不安定な今、俺はそんなことよりキラを助けたい気持ちが強かった。
今はこうする以外でキラを助ける方法がわからなかった。なんとかしてやりたい。そんな思いばかりが募っている。
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