付き合ってもいない男女が一緒のベッドに眠る関係はおかしいという常識は、きちんと俺もキラも持っている。だから俺たちはそういうところに配慮を怠らなかった。
早朝に俺が起きるのに合わせてキラは起き、一旦自室に帰り、身支度を済ませてそこから食堂に朝食を取りに行くという生活をしている。早朝はほとんど人の目がないからだ。
夜は教団では通路に仄かな明かりがつくが、大体シルエットしか浮かび上がらないので、キラは人目を避けて来さえすればいい。
だいたいは夜など他人の往来をきにかける人間はいない。注意すべきはコナーぐらいだったので、案外これは楽だった。
しかし、俺とキラが気づかなかった問題がひとつ生まれていた。
それに気づいたのは、というより気づかされたのは、観察眼が鋭いラビによってであった。
「最近、キラとユウ、距離近いさね。心の距離が縮まってるって感じ?」
ラビと同じ任務につかされて、移動中の列車で言われたことだ。俺が逃げづらいような個室での会話だ。こいつのことだから、場所は意図して選んであったのだろう。
俺とキラが失念していたこと。それはほとんどゼロ距離で夜を過ごしていたせいで、日常でも自然と距離が近くなっていたことだった。
ラビを思わず睨むと、兎は「大丈夫さあ」とのんびり笑った。
「たぶん、気づいてるの俺だけ。だって二人とも距離は近いけど、雰囲気はすげー淡々としてるし」
「……だから、何が言いたいっていうんだ」
「別に? 二人って付き合ってるん?」
「んなわけねぇだろ」
「ふーん?」
適当な返事だったので、余計俺の言葉を信じていないのがわかる。言い訳じみたことをするのは好きではないが、変に吹聴されるのもたまったものではないので、少しだけ明かすことにした。
「あいつがどうかは知らねぇ。あいつは俺のこと、仲間だとは思ってるだろうがな」
「一番の、さね」
「俺は……あいつの、唯一になりたいと思ってる。それだけだ」
「ひゅー、かっこいいさあ」
「茶化してんじゃねぇぞクソ兎」
仲間のくだりで止めておけばよかったはずなのに、いつの間にか自分の本心まで口に出していた。後悔の念がわく。取り消せない。
「茶化すつもりなんかないって。でも俺は、ユウのこと応援してるさ」
「別にお前の応援はいらない」
「またまたつれないこといっちゃって」
俺はラビがこんなふざけた調子なら、これ以上口を開くまいと思ったが、俺が口を開いても閉じてもこいつに関しては面倒なことになるので、結局話続けることにした。
「実際キラちゃんもユウのこと一番に思ってるって、俺は思うけどさあ、ユウの手応えとしてはどうなん?」
「仲間としての一番だ」
「えー? 俺からしたら一目瞭然なんだけど。だってキラちゃん、ユウがやばいって聞いたとき仕事そっちのけですぐさま病院に向かったんだぜ? これで恋じゃないっていう方がおかしくねえ?」
「そもそもあいつに恋愛の概念があるかどうかを考えろよお前」
「いや、それくらいあるさ。キラちゃんって以外と感情表現豊かだし」
「…………」
確かにラビのいう通りだと、俺は沈黙した。
キラは多感だ。自分でも思春期の時期に当たるといっていた。頭は大人顔負けだが、心は年相応だ。
「まあ、キラちゃんって、ちょっと変わってるし、もしかしたら恋愛じゃないって可能性があるかもしれねぇけど。ユウはユウのペースで、キラちゃんと距離つめていったらいいさ」
「……余計なお世話だ」
いつの間にか、ラビからアドバイスを受けていたが、素直にうけとれないので、大分ぶっきらぼうに返事をした。
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