ぐるぐる眼鏡 | ナノ
月明かり浮かぶ横顔

その日の夜、部屋にキラが訪ねてきた。
めったにノックされることがないドアを開けると、パジャマ姿のキラがいた。夜十時のことだった。手の平を前で組んで、うつむいている。

「なんだ」

用件を訪ねると、うつむいたままキラは言った。

「ここに泊まらせてください」

「あ?」

思わぬ要求がやって来た。まさかまだこいつは俺がいないと不安だと言うのだろうか。

「まだ不安なのか」

俺にしては珍しく、キラを心配する。これまでも不安定なところがキラにはあったが、俺の怪我をきっかけに増したのかもしれない。

「二週間同じベッドで寝ていると、そちらに慣れてしまい、一人になると少し寝付きが悪くなってしまいました。ですので」

「…………」

キラはうつむいたままだ。俺もちょうど就寝しようと思っていたところで部屋の明かりを消していたから周りは薄暗いしキラは眼鏡をかけているから表情が見えない。とりあえず俺はキラを部屋に引き入れ、キラが大丈夫か確認することにした。
明かりを灯し、キラをとりあえず部屋のなかで唯一座れるベッドに座らせる。

「眼鏡はずすぞ」

勝手に眼鏡をはずす。キラはされるがままだった。
眼鏡をはずすと、現れた素顔は心細げであった。不安定さがにじみ出ている。

「大丈夫か」

こんな言葉、キラ以外だったら絶対にかけていない。するりと自分の口から出てきたのが驚きなくらいだ。
キラはかすかにうなずくが、大丈夫だと言うには少し不安が残る。

「もうしばらく、神田ユウに抱きしめられて、眠りたいです。お願いします」

キラは俺に体を向けて頭を下げた。キラの背中は俺より遥かに小さく、華奢で、儚げで、俺はキラの頭に手をおいた。

「しばらくな」

「ありがとうございます」

そういってキラはベッドから立ち上がり、明かりの方へ歩いていく。

「もう、神田ユウも寝ますよね。明かりは消しますよ」

「わかった」

俺は先にベッドに入った。キラはそれを確認してから明かりを消し、自分も俺が開けたスペースに静かに入り込んだ。キラが俺の胸に顔を寄せ、俺はキラの頭を腕にのせてゆるく抱き締めてやる。

ほう、とキラが全身の力を抜くような息を吐き出した。顔を覗きこむと、月明かりで見えた表情はあどけない天使のようだった。俺がいつも風呂から運んでやるときのような表情だ。

「おやすみなさい」

キラは目を閉じていて、そのままそういって寝た。

「ああ」

俺はうなずいて、自分も目を閉じた。

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