「ねえアレン。」
アレンの部屋に飾られた絵を眺めながら、私は言った。
この部屋は、あんまり無駄なものは置いてはいない。しかしなんとなくアレンの部屋だっていう感じはする。枕の横に置いてあるトランプだとか、私が見つめている絵だとか。
アレンの断片が垣間見えるそれらを見ているのは飽きない。きっとアレンは他にもトランプをもっているだろうから、一束もらいたくなってくるくらいだ。もちろん、新品ではない。もらわないけど。
「今日の予定は?」
「これから食事した後、一緒に組手しませんか?それから今度はおやつを食べて、部屋に戻ってゆっくりしましょう。」
「オッケー。お昼まではあと一時間くらいあるから、今はまったりタイムで。」
私はアレンのベッドにごろんと寝そべって、彼の枕に顔をうずめた。このままもう安眠できそうだ。
「ねえ、なまえ。」
「なーにー、アレン。」
「僕もそっちいってもいいですか?」
「ふふ、どうぞ?でも枕は渡さない。」
「なんですかそれ。」
アレンは呆れたように笑いながら、私の隣に寝転がった。背を向けている私を後ろからすっぽり覆う。
「なまえはやっぱり、あったかいですね・・・」
私の首筋に顔をうずめながら言うアレンに、私はくすぐったいと返すけど、彼はあんまり言うことを聞いてくれない。
さらにはすんすんと匂いを嗅ぎ出した。
「あ、アレン・・・! なんかそれやだ、」
「すごくいい匂いです。」
「・・・恥ずかしいよ。」
「でも恥ずかしいの好きでしょ?」
「なんてこと言うのっ」
「違いました?」
「違います。もう・・・」
私はアレンの方を向こうと寝返りをうった。
アレンとピッタリくっついて、彼の胸辺りに顔をうずめる。
「枕はいいんですか?」
「いいの。」
「実物がいるから?」
「えっ・・・・」
「枕と僕、どっちが匂い強いかな。」
「・・・・」
「やっぱり僕ですか?」
「アレン、それ以上いったら・・・」
「怒りますか?」
「そう、怒るよ。」
彼の腕の中、胸に顔をうずめたまま言う私は息をするたび彼のその匂いを取り込んでいる。
「でもいじわるされるの好きじゃないですか。あと、僕の匂い。」
「ばかアレン。怒るっていったじゃん。」
私は拳でコツンとアレンの胸板を叩いた。
「今ので怒ったんですか?」
「そうだけど。」
ちょっとふてくされながら言った私をアレンは笑った。なんで笑うのよ、とアレンをしたから睨む。
するとアレンが私のおでこにキスを落とした。
「かわいいですよ、なまえ。」
「・・・それはどうも。」
アレンはそう言いながら、私のまぶたにキスした。それから私を抱きしめている手の位置を修正して、少しだけアレンと私の間に隙間を作った。
アレンの表情を伺うように顔を上げる。すると妖しい笑みを浮かべるアレンがいた。私はその瞳にぞくりとした。合わせた瞳から、全てが見通されているみたい。
「なまえ、僕少し楽しいことしたいんですけど。」
私の腰に回していた手の片方を、アレンが下降させる。その手は、私の太股でとまる。
「この後、ご飯食べるって言ったの誰よ。」
アレンは目を愉快そうに細める。
「なまえ、何をあなたは想像したんですか?」
「なに、って・・・」
「僕はあなたと一緒にお昼まで眠りたいなと思っただけですよ。」
かあ、と頬が熱くなるのが分かった。アレンがわざと変な言い回しをしたのは今ので気づいたけれど、それでもそのアレンの思惑にはまって変な想像をしていた自分が恥ずかしい。
「アレンっ・・・!!」
とがめるように胸板を叩く。
と、アレンが太股をするりと撫でた。急なことに我慢がきかず小さな反応を見せてしまった。それに気をよくしたアレンが私の額に唇を寄せた。
この似非紳士。と小さくつぶやくと、アレンは私の耳に今度は唇を寄せる。アレンの吐息がかかって、また小さく反応をしてしまった。
「可愛い、なまえ。食べてしまいたいくらいです。」
耳元でささやかれた言葉は、私の体を熱くするには十分で。
アレンはそういう言葉をわざと選んでいるのだって分かっているはずなのにどうしようもなく切なくなる。
「やっぱり、お昼はもうちょっと先にしましょうか。」
私ともう一度目を合わせたアレンが、さっきの妖しげな笑みから一瞬だけただの優しい笑顔を見せる。
私は小さくうなずいた。すると次の瞬間にはアレンが私の唇にキスを落としてくれていた。