追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 8 pieces

「国立中央図書館第一分館、ティム・マルコー」

エドワードに渡した紙に書かれていたのは、それだけ。でも僕は確実に自分の道筋が見えた気がしていた。そこへ行けば、その先へと踏み出せるのだという確信が見つけられた。

「嬉しそうであるな。」

少佐が珍しくにやにやしていた僕に柔らかい表現を使って聞く。

「そりゃそうだよ。僕が探しているものが見つかりそうなんだし。」

軍の秘密というのも気になるけれど、それよりも前に、僕は自分の記憶が取り戻せる可能性を賢者の石の先に見出していた。

「む?賢者の石が探し物か?」

僕が賢者の石を探しているのかと問いかけた少佐の言葉に、エドワードがぴくりと眉を動かす。僕は視界に入っていたけど気づいていないそぶりをして答えた。

「ちがうちがう。僕はもっと違うものを探してるんだ。」

「じゃあ、何を探しているのだ?」

「僕の12年のその向こう。」

首を傾げる少佐に、僕は淡く笑んで、車窓を見つめた。



*



リゼンブールに訪れるのは初めてだ。
僕はのんびりしたところという印象を受けながら、エドワードの幼馴染で機械鎧整備士で義肢装具士だという人の家に向かった。

僕の短髪が風に揺れるたび、首元がとても心地がいい。空気がいいだけじゃなくて、漂う雰囲気がいいお陰な気がする。

エドワードの幼馴染は、エドワードにスパナを投げるあたり最初は凶暴かと思ったけれど、清々しい性格をした女の子だった。強烈な登場のせいでついつい挨拶を忘れてしまっていたけど、エドワード達が外にでてからようやく挨拶をした。

「僕はケイトです。よろしく。」

「あたしはウィンリィ・ロックベル。よろしくね!」

僕が淡く笑むと、彼女は少し顔を赤くして挨拶をしてくれた。たぶんこれは、僕のことを男だと思っているパターンだな、と勝手に推測しておく。男のように意図して見せているし、男だと見られた方がやりやすいのは確かだ。こういうとき、そこらの男よりもイケメン顏で良かったと思う。

ここに滞在している間、僕はすることがなんにもなくて、ロックベル家の家事などを手伝ったり(料理は仕込まれたからある程度ばっちし)、近所の人たちが困っているところを錬金術で解決したりと、とにかく動き回った。久しぶりに記憶関連以外で錬金術を使うと気持ちが良かった。錬成陣を書かなくちゃいけないのは少し面倒だけど、時間はたくさんあるので良しとする。

宿泊一日目の夕食は、僕が作った料理が数品並んだ。

「これ、お前が作ったのかよ!」

驚くエドワードや少佐に僕はわざと自慢げに鼻をならした。

「ダブリスで、母さんに仕込まれた。」

「どっかの誰かさんも見習って欲しいわね。」

「別に料理ができなくても生きてけるだろ!」

わいわい言い合いながら僕の料理を頬張ったエドワードがうめぇ!と元気に言う。ウィンリィも、みんなも美味しいって言ってくれたのがなんだか嬉しかった。

「・・・・」

「どうした?」

「いや、僕は兄弟とかいなかったからいたらこんな感じなのかなって。」

僕がご飯も食べずにみんなをじっと見ていたもんだから、それに気づいたエドワードが問いかけた。僕はこんなこというの、僕の柄じゃないかもなと思ったけれども言ってみる。

するとエドワードはきょとん、としたあと言った。

「お前、兄貴いたぞ?」

「・・・・・・え?」

僕はエドワードの言葉に驚いた。僕に、兄がいた・・・?
ずきん、と頭痛が始まる。

「なあアル!」

エドワードがアルフォンスに聞くために僕から目を離した瞬間、僕が椅子から転げ落ちた。

「む!大丈夫か!」

「ケイト、大丈夫!?」

目の前が揺れる。霞む。
頭痛はひどくて、僕はまだ胃の中に食べ物を入れていなかったのを幸運だと思った。もし入れていたらはきそうだった。

僕は自力でなんとか立った。だけど平衡感覚がなくて、立てない。少佐が僕を抱き上げてソファへと寝かしてくれるのがわかった。
頭痛がひどい。思わずうめき声を上げながら、僕は頭痛と戦った。
思い出してはいけないものを思い出そうとした、罰。頭を大きな針で貫かれたみたいな痛みがあって、僕は思わず意識を手放していた。

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