追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 6 pieces

『ふーん、本当かどうかわかんないけど、まあいいや。でもできるようになったら教えてね。』

記録係は意外とあっさり追求をやめてどっかへ去っていった。
僕は一応、戻ってきた憲兵に仕事が本当にあるのかないのかきいたら、上からのお達しであれが仕事のうちだとかのたまいやがった。僕は、こんな仕事二度と僕に寄越すなと憲兵に八つ当たりして帰った。

ぷんすか怒りながら、グラマン中将のところに行って、一応報告すると、グラマン中将は何を考えているかわからん顔で、たぶん拒否しない方が僕の身の安全のためにもいいとか言い出すし、でも一週間の仕事はもう全部片付いたから必要なくなったとか言われるし、とにかく僕の怒りは今日一日は収まらなさそうだ。きっとグラマン中将が言ったことは、あの男が言っていた軍の秘密にも関係することなのだろう。軍のどこかに、何かは分からないが危険なにおいのする秘密があるというのが気に食わない。あの記録係はきっと、それらの下っ端か何かなのだろう。次に会ったら一発きついのをお見舞いしてやる。

で、グラマン中将のところに行ったあと、一応大佐のところに顔を出すと、大佐とリザさん以外しかいなかった。

「みんな、お仕事お疲れ様。リザさんたちは?」

ときいてみると、どうやらタッカーという国家錬金術師の件で、することがあるようだった。
なんでも、その国家錬金術師は娘を合成獣にしたとかで。ハボック少尉から詳細を聞くだけ聞くと酷い話だった。仕事でよく、無惨な光景を見ることは多いけど、幼い子たちが酷い目に会うのは、いつ見てもきいても気分が悪い。

「鋼の大将も、辛かったろうな・・・」

ハボック少尉の言葉に僕は首を傾げる。

「なに?エドワード達もかかわってんの?」

「ああ。俺が今日まで送ってったとこだったんだよ。」

「そうなんだ・・・」

僕は相槌を打つだけ打って、少尉達の仕事を手伝うことにした。
仕事が思ったよりも早く終わったせいで時間が有り余っているし、僕にできることと言ったら、リザさんの仕事を減らすことだ。明日からはなにも仕事がないから、少しここで仕事を手伝ったら、また出発するのだし。

二時間くらい主に雑用してたら、大佐とリザさんが帰ってきた。

「ケイトちゃん、早かったのね。」

「思ったよりすぐ終わったんだ。」

リザさんは少し疲れているようだったから、僕は会話の流れで答えるべきところのみを答えた。こんな子供が彼女を煩わせるわけにはいかない。

また、リザさんに手伝ってくれて助かると、お礼の言葉をもらいながら、それぞれ作業に取り掛かった。
しばらくそうしていると電話が鳴りだした。タッカーの件に関することか、また別のことだろうか。とりあえずリザさんが受話器をとり、受け答えした。どんどん険しくなっていく顔に、ただならないなにかを感じる。

「・・・タッカーと娘のニーナちゃんが、殺されたそうです。」

執務室は凍りついた。



*


翌朝、僕はリザさんたちが軍に来る前に待ち伏せて、強引に殺されたタッカー宅へと向かった。
昨日、遺体の状況を聞いた僕は犯人に思い当たる節があって、自分の目で確かめたかったのだ。

中央からタッカーを引き取りに来たヒューズ中佐やアームストロング少佐が犯人について知ってたみたいだから僕はいらないかと思われたけれど、武器とか知らなかったみたいだし、そこは助けになれそうだ。

「僕、そいつとやりあったことある。」

一旦部屋からでて、エドワードたちを探すために車に乗り込んだ大佐に僕は話した。

「ほんとうか!」

軽く目を見開く大佐に僕は頷く。

「そいつの武器は、素手だよ。素手といっても、触れたとこから物質をなんでも破壊するんだ。」

「なぜ黙っていた!」

「僕は恨みを買いやすいから、国家錬金術師狙いだと思わなかったんだ。」

話している矢先に、凄まじい音がなるのが聞こえた。素早く視線を巡らすと粉塵がまっているところがあった。

「なにかにつかまってくださいっ。」

急ブレーキを踏んだハボック少尉の指示に従い自分の座席の背もたれにしがみつく。雨で滑ったけれどちょうどエドワードたちに近い、いい場所に止まった。

全員素早く車からおり、大佐が注意を引くために銃を空に向かって打つ。
ギリギリだった。エドワードは右の機械鎧を壊されていてなにもできなくて、アルフォンスも歩けない状態になっていて。今まさに傷の男にやられるところだったのだ。ここで僕は初めてアルフォンスもエドワードと同じだったことを知る。

兄弟で禁忌を犯したのか。

ずきん、と急に頭が痛くなった。
何かが引っかかって、思い出せるはずもない12年間を呼び起こそうとしているみたいだった。いや、ちがう。これは記憶を呼び起こそうとした僕への罰だ。
頭がひどく痛くて、目の前の光景が揺れる。でも今は、傷の男を前にして気を抜いていてはいけない。僕は頭痛が早くおさまることを願いながら歯を食いしばって足を地面につっぱっていた。

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