追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 43 pieces

「紹介が遅れましたが、私が呼びよせた国家錬金術師です」

「ケイト・クウォーク、追憶の錬金術師です。よろしくお願いします」

「中央のレイブンだ」

「お噂はかねがね聞いておりますよ、追憶の錬金術師殿。ゾルフ・J・キンブリー、紅蓮の錬金術師です」

アームストロング少将がレイブン中将とキンブリーに僕を紹介してくれた。

「それで、なぜここに彼女を呼んだのかね」

「少し前の査定で、彼女の錬金術を聞きました。痛みを感じさせない錬金術だとか。詳しく調べてみると、他にも応用できる可能性を考え付き、前々から個人的に来てはくれないかと打診しておりましたところ、今の時期に」

「そうだったか。しかしとても大変な時期に来てしまったようだ」

「ええ、本当に」

レイブン中将は不穏な空気をまとった人物に見えた。中将と少将の間には駆け引きが見える。
キンブリーはレイブン中将に負けず劣らずの不穏な空気があったが、危険な感じもあった。
まぁどちらも、中央から来ている時点で、大総統の息が十分にかかっていることは分かっている。ボロを出さないよう用心だ。

「彼女はしばらくここで過ごすことになるので、彼女の自室、兼、研究室を設けております。国家錬金術師として、中将のお役にも立てることがありましょう。その時は遠慮なさらず彼女にお声がけください。彼女もそれでいいと言っております」

という感じで、僕はここで自由に動けることになった。

少将は嘘っぱちの理由を適当に作り上げて、レイブン中将に言っていたかと思ったが、どうやら違ったようで、驚いたことに後できちんと僕の自室兼研究室を紹介され、しかもそこで僕に研究してほしいことを書いたメモをもらった。
昨日の今日で、僕のことを丁寧に調べ上げ、しかも僕にはない新しい発想まで出してしまうなんて、驚きだった。

少将の指示内容は、僕の痛みを感じさせない錬金術の原理を応用して、人体のすべての信号の送受信を止めるような錬金術を作るというものだった。
それだけが書かれていた。
何に使うのかは、容易に推測できた。彼女が考えているのはいつでも力を得ることだからだ。
きっと、少将はこれで敵を無力化するつもりなのだろう。人体のすべての信号の送受信を止めてしまったら、見えないし、聞こえないし、感じることができないし、そして、動けない。この隙に敵を拘束、または包囲することができるだろう。

最悪、敵は自ら知覚しないうちに死ぬことになる。なぜなら、体の全機能が停止する恐れがあるからだ。脳は、体の全てを司る。そこからなにも司令を受け取れないとなると、体は生命維持の機能を失う。

使い方を誤れば、記憶を消す以上に危険な錬金術になるのは明白だった。
しかし、僕はこうも思ってしまった。
これを使えば、ホムンクルスにも勝てる。自分がどこまでできるのか、試したい。

お前はいつのまに人でなくなったのかと、自分に問いかけたくなった。僕が兵器としての錬金術に手を出そうとしているとエドとアルが知ったら、二人は僕のことをどう思うだろう。母さんと父さんは? 僕の本当の母さんと父さんは……?

「……僕、何やってんだろ」

ふと我に帰る。僕は、倫理にもとる錬金術を作り出しすぎてはいまいか。
記憶を消す錬金術、記憶操作、そして、今作っている錬金術。倫理にもとる。そして、最悪兵器にもなりうる。悪用なんて、簡単だ。
いつのまに、こんなことになってしまったのだろう。

家族を追い求めて記憶を取り戻そうと必死になって。やっと兄という存在を見つけた。
家族以上に、僕は追いかけてなかった。僕の中で一番大切なのは、家族だった。

でもいつのまにか、家族と同じくらい大切にしたい人ができて、家族以上に優先していることがあって。

大切にしたい、僕にできることなら、なんだってしよう、ってしてたら、いつの間にか兵器に手を染めてる。

いいのかな、このままで。このまま、これを作っていいんだろうか。

水面に一石投じたかのように、唐突に、この想いに支配されていく。

僕は今何を求めているのだろうか。

prev / next

[ novel top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -