追憶の錬金術師 | ナノ


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エド達と僕が知り合いであり、ホーエンハイムさんがエドたちの父親だという偶然にひとしきり驚きあってからようやく僕たちはお互い興奮状態から落ち着いた。

「それで、今後どうするんです? 逆転の錬成陣はもう完成しているんですか?」

「うん、実はもう完成している。ただ、あいつが"約束の日"になるまで国土錬成陣を発動させないから、俺はしばらくはここにいるだろうな。君は?」

「僕は……そうですね、自分の記憶操作の錬金術の後始末をしにいきます」

「気をつけて」

「はい」

僕はホーエンハイムさんに念のため記憶操作の錬金術とその逆転の錬成陣を渡し、別れを告げて、リオールを去った。
まず僕はエドとアルと連絡をとる必要がある。
万一のためにアルに逆転の錬成陣を渡さなくてはいけないし、それから、それをどうやってみんなに使うか考えなくては。


*


エドとアルの詳しい行方や何のためにそこへ向かったのか大佐なら知っているかもしれないと思って、中央に帰ってみた。

外から電話を掛けて、大佐に会いに行く連絡をいれると、会えないと言われた。

「最近、有能な補佐官が出世していなくなってしまって、仕事が捗らないんでね、忙しいんだ」

というのが大佐の会えない理由だった。
補佐官が出世、という言葉に僕は訝しげに眉を潜める。軍の人事はよくわからないが、リザさんが大佐の補佐ではなくなったのが、なんだか異様なことに思える。

「ふーん……忙しいのか。それなら、暇なときができたら会うとするかな。……そういえば最近、両親の墓参りをしていないな、それにお世話になった人とも疎遠だ。こっちにいる間はあとはお世話になった人を久々に回ろうかな」

「そうか。ちなみに無駄足にならないようにいっておくが私の部下は有能な補佐官以外も人事異動があってね、ほとんど中央にいないからな」

「えっ、そうなの? それは知らなかった。ありがとう、それじゃ」

大佐の言葉で、いよいよただ事ではないことがはっきりしてきた。大佐にいったい何があったのだろう。部下のほとんどを手元から失ってしまうなんて。

なにがなんでも、あって話をする必要がありそうだ。

僕は電話で宣言した通り、ヒューズさんのお墓に向かうことにした。


*



僕の両親の墓はもちろん中央にない。僕たちは南部で暮らしていたのだから、二人の墓は南部にある。
外からの回線まで軍に盗聴される可能性は低いかと思ったが、万が一のために、ヒューズさんのお墓に参ることを言って、ホムンクルスに僕が大佐と密会したことがばれては困るので、ちょっと嘘をついただけだ。ばればれな嘘だっただろうか。大佐は僕のことをそこそこ知っているだろうから、大佐には分かりやすかったはずだけれど。

「…………まさか、ヒューズにこれほど美人の知り合いがいたとは。やつも隅に置けないな。まさかとは思うが、愛人、なんてことはないでしょうね?」

「……まさか、私はそんなんじゃありませんよ」

というのが最初、僕と大佐が久しぶりにあってヒューズさんの墓の前で話した内容だった。僕は念のために女装をしてきたのだ。僕の場合、普段男性の格好をしているが、そっちのほうが違和感なく周囲に認められる格好で、男装にはならない。女性の格好をするほうが、女装なのだ。

「っくしゅん」

自分の顔からの白粉の臭いが鼻について仕方がない。

「最近は冷えてきていますからね、どうぞ」

「寒いからではないのだけど……ご厚意感謝します」

大佐が優しく上着を僕に羽織らせる。今まで女性らしく大佐に優しくされるなんてことなかったから、そっっちに寒気だ。

「……くくっ」

と、ここで大佐が笑いだした。茶番が終了した合図である。

「まさかなあ、追憶ののじょそ……いや、女性らしい格好を見ることができる日がこようとは。カメラに納めたいくらいだ」

「こっちは用心してこうしてんだよ。大佐は女性関係では知り合い多いだろうし、その中に埋もれようとしてんの」

「いや、もちろんわかっている。中尉に見せたかった」

「そうだ大佐。何があったんだよ、部下ほとんど人事異動って」

「そうだな、まずどこから話をしようか……」

大佐は僕が大佐に手紙を渡してから、今までにあったことを事細かに説明した。
エドたちが傷の男を使ってホムンクルスをおびきだす作戦をし、グラトニーを捕まえたこと。そのときリンたちの協力を得て、大総統がホムンクルスだとわかった。ランファンは片腕を失ってしまった。一旦は全員隠れ家へと集まったが、そこでグラトニーが暴走して暴れ、大佐やランファンなどは脱出、エド、アル、リンが残った。その後どうなったか詳しいことはわからないが、大佐は大総統がホムンクルスだというネタを手に上層部へと向かうと、そこで軍全体が真っ黒であることを知り、と同時に部下全員を人事異動させられ、リザさんは大総統補佐官となり、人質となってしまったらしい。エドもウィンリィを人質に取られたという。

ランファンの片腕、リザさんたちの人事異動。
僕がちゃんと話していれば、ランファンは大総統と対峙するときに用心して片腕を失うことはなく、大佐も迂闊に軍上層部で大総統のネタをちらつかせることはなく、人事異動もなかったかもしれなかったように思える。
どうせ同じ事実を手にすることになるなら、すべて明かせばよかった。

「……そんなことが、あったんだね」

僕は、自分の後悔を口にしそうになるのをこらえて、それだけ言った。
この後悔は、今さらいってもしょうがない。口に出しても、僕の罪悪感が幾ばくか減るだけだ。僕にだって人質がいた。酷いことを言えば、ランファンの片腕よりも、大佐の部下やウィンリィが人質になることよりも、優先すべき大切な人がいたのだ。

「それで? 君は何をしていた」

今度は僕が話す番だ。
今回こそは、僕は自分が知る限りのこと全てを話した。

記憶操作の錬金術、逆転の錬成陣の完成、リオールで出会ったエドの父親、そして国土錬成陣と約束の日。ホムンクルスの総数。プライドという影を扱うホムンクルスの存在。

「……我々の知らないホムンクルスがあと一人はいるということだな。中尉が、セリム・ブラッドレイがホムンクルスだということは突き止めている」

「はっ!? あいつが!?」

「ああ。プライドの方だ。スロウスというやつは、まずどこにいるかわからないし、姿も見ていないから用心のしようがないな。それにしても、国土錬成陣……やっかいだな、逆転の錬成陣や約束の日とやらまで時間があるとはいえ、阻止するに越したことはない」

「地下の円はプライドに守られてて壊せない。あと、北方にまだ流血事件が起きていないんだ。そこの流血を防げれば、発動は起きない。ただ、これまでの流血沙汰は、全部軍が関わっているんだ。この阻止は難しいだろう」

「あとは、お父様やホムンクルス自体を排除……」

「厳しいな」

「しかし倒さないことには将来また同じようなことが起こるだろう。それに、この国を変えるにはいずれにせよホムンクルスは邪魔だ」

「大佐って大総統狙ってんの?」

「ああ」

「ふーん。まあ頑張れば」

「適当だな君は……」

「大佐だったら絶対できそうだからさ」

「誉め言葉、ありがたく受けとるよ」

互いの情報交換が一通り終わったところで、ようやく僕は本題に突入した。

「でさ、今日はエドとアルがどこいったか聞きに来たんだけど」

「鋼の達か? 二人だったら、アームストロング少佐の紹介でブリッグズ要塞に行ったはずだ」

「何しに」

「錬丹術が使える少女を追っていったんだ。それで少佐の姉のアームストロング少将が協力できるかもということでな」

「へえ……わかった。善は急げだし、早速いくかな」

「中央を出るまではその変装は解かない方がいい。見つかりにくい。それに似合っているからな」

「はあ? やだよ」

「駅は意外といろんな人物がいる。君のことを知る人に見かけられないためにもそうしておいたほうがいい」

「はあ……わかった」

肩が凝るなとこれからのことを思いつつ、僕はうなずく。大佐のいうことは一理ある。安全をとるならそれくらいしておいたほうがいいのだろう。

「大佐、一応これ渡しとく」

「なんだこれは?」

「記憶操作の逆転の錬成陣。大佐くらい意志が強い人にはそもそも記憶操作は聞かないけど、もしものために。慢性的な頭痛に悩んでいる人がいたりしたら使ってみて。解放してあげたら、味方がつくれるかもね」

「そうか。ならもらっておこう」

「それじゃあな、大佐。気を付けろよ」

「君もな」

大佐と会って、目的を果たし、さらに逆転の錬成陣を渡せたので、僕は大佐と別れた。墓から数歩歩いたところで、上着を返し忘れたのを思い出して、一度返すために引き返したけど。
そのとき大佐が笑って、

「北では、風邪をひかないようにな」

と優しく言ったのが、なんだか自分が女装をしていたのも相まって、女として優しくされたみたいでくすぐったくなった。

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