追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 38 pieces

中央からは離れた東部にあるリオール。そこは暴動が起こって人の血が流れた場所だった。国土錬成陣の一部。
今はみんな、復興に向かって働いている様子が見られる。
大きな像が建物に倒れこんでいる光景は、驚きであり、興味が湧くものだった。

そんなところに、あの"お父様"が来たりするものだろうか?庶民が使うような列車を使って、僕よりも先にくるものだろうか?
それともあれほどの錬金術が使えるから、

「なっ、あんた、瞬間移動でもできるのか」

そう。瞬間移動だ。そんなありえないこと、できるのだろうか。
グリードのありえないことはありえないという言葉を聞いてから、何でもかんでもありえそうな気がしてしまうから困る。あのお父様ならと考えてしまう。

でも今回は違った。

「もしかして君、俺と同じ顔のやつと知り合いか?」

お店でコップ片手に一息ついている様子の男は、驚きでしりもちをついてしまいそうなほどのけぞった僕をみて、落ち着き払った様子で問いかけた。
同じ顔のやつ。

「知り合い、ですけど……双子ですか」

僕は、相手に不用意に自分の立場を落とさないよう、態度を改めて聞いた。
双子だったら、この男もお父様の仲間なのだろうと結論づけるつもりだった。しかし彼は首をひねって、そうではない、といった。

「あいつは……なんというべきか……見た目だけ俺で、中身は、まったく別のものでね……」

彼は言いづらそうにしている。説明が難しいのか、それとも僕を信用していなくて全てを話せないのか。

「仲間ですか」

まどろっこしくて単刀直入に聞くことにした。男は「ちがうちがう!」と思いっきり首を振った。

「証拠は?」

男の答え方でほとんど、仲間ではないんだろうなと感じたけれど、一応いじわるで聞いてみた。証拠なんて普通そんなぽんと出せるとは思えない。お父様の仲間じゃない証拠を出せるなら、例えば国土錬成陣の防ぎ方を探しているはずだ。そしてホムンクルス共から逃げ回っているはずだ。そんな重要な機密や事情を初対面に出すはずがない。

「困ったなあ。あるにはあるけど、俺は君のことを知らないから信用ができない。君を信用できたら、話してもいいんだが……お茶でも一杯、どうかな?」

その言葉に僕は100パーセントこの人を信用した。だってこの人、僕を知らないといっている。お父様と瓜二つだったら、僕のことを知っていてもよさそうなのに。
本当にお父様の仲間じゃないのだろう。

僕は彼のお茶の誘いに乗って、お互いに自分について話し合うことになった。



*


場所を変えて、僕は男と話した。男は、ヴァン・ホーエンハイムと名乗った。
最初に僕から話をした。僕の素性と、専攻する錬金術、それから僕の簡単な過去。
そのあとにホーエンハイムさんが話をした。彼の生い立ち、それから賢者の石の話。僕を信用してくれたのか、だいぶ詳しく話をしてくれた。

「君は人体錬成をして、その後記憶の取り戻し方をやつに聞いた、それから奴に協力するふりをして立ち向かおうとしている……と」

「ホーエンハイムさんはクセルクせスで賢者の石になって、いまあのお父様をやっつけようとしている……と」

僕らはうなずきあう。

「それで、僕は此処の地下に彫られているはずの円を探しに来たんです。壊せないかどうかとか確認したくて」

「無理だよ」

目を鋭く細め、ホーエンハイムさんはきっぱりと断言する。

「いくら君が人柱といえど、奴は容赦しないだろう。手足の一、二本は覚悟しなくちゃいけなくなる」

「奴……?なにか、地下にいるんですか」

「ああ、プライドっていう名のホムンクルスだ」

「ホムンクルスって、何人いるんです?」

「色欲、嫉妬、暴食、強欲、憤怒、怠惰、傲慢……人には七つの欲や感情がある。あいつは自分からその七つを切り離して、それぞれホムンクルスを作った」

「七人ってことですか」

なら、あと二人を僕は知らないことになる。怠惰(スロウス)傲慢(プライド)

「地下にはそのプライド一人ってことですか。一人で国の縁を一周するほどの円を守ってるって……」

「奴は自分の影を自在に操って地下の円を守っている。しかもその影は奴の実体じゃない」

ようやくお父様が余裕たっぷりに地下の円を見てこいといっていたわけを理解した。ガーディアンがいたというわけだ。

「そういうことか……くそ、なら国土錬成陣の発動は阻止できないのか……?」

「発動は阻止できないだろう。でも発動後に、全てを元に戻すことはできる」

「もしかして、逆転の錬成陣……!」

「そうだ」

僕の記憶操作の錬金術だって逆転を考えることができたのだから、国土錬成陣だって逆転を考えられるはずである。

「俺はずっと、各地をめぐって、その逆転の錬成陣の準備をしてきた。今はそれが終わって、ここに宣戦布告にきたんだ」

「そうなんですね……」

ここで僕は記憶操作逆転の錬成陣を取り出した。

「僕、ホムンクルスに協力して、記憶操作の錬金術を作ったんです。で、これは記憶操作逆転の錬成陣です。理論上は可能だと思ってはいるんですが、できれば、あなたのような錬金術に詳しい人から大丈夫だと言って欲しいんです」

「どれ」

じっと錬成陣を見つめるホーエンハイムさん。
それから口をもごもごと動かし続け、数分後に、うなずいた。

「うん。これは可能だ」

「よかった……ありがとうございます」

紙を返され、懐にしまう。

「まさか君のような若い子が、此処までできるなんてな、なんだか俺の息子のことを思い出すよ」

「僕は、人体錬成であれをみたから…………きっと、息子さんは正真正銘の天才なんでしょう」

「……人体錬成をしていようと、していなかろうと、関係はない。その錬成陣を作り出したのは君だ」

「そうですか……」

僕はそれだけいうので精一杯だった。人体錬成をしていなかったら、という例えばの話は存在しない。僕は罪を犯した。そして今ここにいる。自分の犯して、また上塗りをしてしまった罪の贖罪のため、僕はホムンクルスと立ち向かおうとしている。

「息子も、国家錬金術師というのをしているようでね、機会があったら会うこともあるかもしれない」

話題が変わって、いつの間にか下がっていた頭を僕は上げた。

「お名前は?」

いつか顔を見たときにでも、挨拶をしておこう位の気持ちで、僕は尋ねた。

「エドワードというんだ。弟もいてね、アルフォンスというんだが……」

「えっ!?」

もしかすると、こちらの驚きの方が、最初ホーエンハイムさんとであったときより大きかったかもしれない。

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