追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 34 pieces

喜びの中にふと潜む影を見ないように、ただひたすらに希望の光を目指して研究した。

第三研究所に無理やり僕の研究室を用意してもらったのがたった2日前のこと。これから三ヶ月、僕はここで研究をする。研究自体は着実に進むし自分の理論が正しいことが証明される予感があるしでとても楽しい。ただ僕は、この研究の行く末が幸せでないことを見ないようにしていた。

中央での僕の寝屋は自分で借りた。大総統やホムンクルスにできるだけ干渉させないように取りはからったつもりだった。それに、僕がこれから作り上げてしまう錬金術をひっくり返せるものを作らなくてはいけないのだし。

「籠の中の鳥か?んー、僕に似合う表現じゃないな。檻の中の猛獣?これはちょっと強すぎるか、エドじゃあるまいし。」

第三研究所の廊下を歩きながら、僕の今の状況を独り言でつぶやき、自分の研究室へとる。研究室は比較的利便性の高い場所にあるから僕は研究室にこもらず行ったり来たりすることが多い。

僕の研究室にはネズミが何匹かいて、僕は彼らを使って研究している。プラスチックで作られた容器の中でネズミはちょこまかと歩いている。

「お前も僕に囲われて、お互い様だなー。」

僕はネズミを指先で撫でてやりつつ話しかける。いろいろと愚痴をこぼせる相手が今のところこいつだけなのだ。

国土錬成陣のこともホムンクルスのことも話せない状況で、僕は日々ストレスを抱えていた。母さんと父さんの強さを考えたら僕はもう少し自由に動いても大丈夫なのではとも考えて、口を開いてしまいたくなるけれど、そこをぐっとこらえているのだ。二人を少しでも危険にさらしたくなかった。

結果、言葉もわからず世の中を変える力など一ミリたりともないネズミに僕は話しかけている。僕だって、世の中を変える力など一ミリたりとも持たない無力で愚かな人間だ。

「そろそろ研究しないとな。」

僕は机に向かって研究を再開させた。机の上に散らばる紙たちを整理しながら何度も何度も自分が行ったことを見直し、間違いや理論の矛盾がないかを確かめながら、少しずつ錬成陣を作ってみては、先ほどのネズミで試している。自分に使えるものだったら少しくらい危険でも錬成陣を自分に発動するのだけど、今回や記憶の分解の研究とかだとできないのでこうやってネズミを使ったりしている。

僕はため息で自分の中にある閉塞感を吐き出して自分のやる気を上げた。
僕の今の状況を打破できるものを僕は切に願っていた。逆転の錬成陣、そしてアル。

そのとき急に第三研究所内が騒がしくなった。

「なんだ?」

周りに話す人間がいないせいで、独り言が多くなった僕はネズミにちょっと見てくると言いおいて部屋を出る。

廊下へでると、研究所員たちの悲鳴がはっきりと聞こえた。それに混じって、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。

その声の持ち主はちょうど廊下の角から姿を現した。ナンバー66と名乗ったあの鎧だった。

「お前!」

僕は驚いたがすぐに身構える。

「あ!あんときの嬢ちゃんじゃねぇか!」

「お前こんなとこで何やってんだ。ホムンクルスはどうした。」

「俺はもうあいつらの仲間じゃねぇんだよ!それより俺は俺の肉を探してんだ!って嬢ちゃんと話してる暇はねぇ、通してもらうぜ。」

66は包丁を構えて突進してきた。僕はその突進の起動から半分ほど移動し、66が迫ってきたところで包丁の手をつかんで勢いのまま66を投げた。

「うっへぇえ!!」

驚きの声を上げて、飛んでいく66。奴はすぐに立ち上がると僕から逃げた。僕は奴を追いかける。

「待てよ、どういうことだ!」

「嬢ちゃんには関係ねぇよ!」

といって66は走り去っていく。追いかければ追いかけるほど、距離が少しずつ開いていく。そういえばあいつ、アルと同じ鎧の体だった。疲れを知らないのだから当然だ。エドとアルがあいつの名前について何か言っていたのを思い出す。何だったか、確かバリー・ザ・チョッパーだ。

あいつの背が見えなくならないように走ってついていく。来たばかりの僕でもまだ建物内を覚えていないのに、バリーはまるでよく知っているかのように迷いなく駆けていく。一生懸命追いかけて追いかけて、変にカーブしている廊下とかを通り抜けて、ついた先は真っ白な空間だった。大きな門のようなものが目の前にある。もしあれがもっと黒で、浮かんでいて・・・と、少し違っていたらまるで心理の扉のようだった。

「げっへっへ・・・こんなん普通ありえねぇよなぁ・・・」

バリーの目の前に、仮面をした男がいる。バリーは刃を手で軽く抱えて、一歩一歩男に近づいていく。

「やめろ!」

「嬢ちゃんはだまってな!俺の体は俺のもんなんだからよぉ!」

「は?」

バリーは僕が止める暇もなく素早く男を切り刻んでしまった。
男は小さく呻き声をあげて倒れる。死んでしまったようだ。

「お前・・・!!」

「まてまてまてまて、説明してやっから。」

殺人を犯したバリーを捕まえてやろうと突進した僕をバリーは慌てて止めた。
しかし僕は突進した勢いでバリーをとりあえず投げた。雄々しい悲鳴を上げてバリーは飛んだ。

「あいつは俺の肉体なんだって!俺はマスタングさんに協力してんだ!」

もう一度バリーに突進しようとしたときに奴が大佐の名前を出したので、僕はぴたりを体の動きを止めた。

「やっと話聞く気になったか。」

バリーは痒くもないはずの頭をかいて、つけるはずもないため息をつく。
それからバリーは事情を説明した。たまたまリザさんに出会って、そこから大佐に協力することになったこと。で、大佐が釣りをしてみるとか言って、敵を待っていたらバリーの肉体自身がやってきて、自分で自分の肉体を解体するためにここまで追ってきたということ。どうやら敵のアジトをつかむためにこの作戦はあったらしいとのこと。

「ここは敵の腹のなかだったのか・・・」

大総統が軍は全部真っ黒だとか言ってたから、第三研究所だってそうなんだろうなとか考えてはいたけど研究所員全員は普通っぽかったから気を緩めてしまっていた。なんて馬鹿なんだろう。

そのときガシャガシャという音が聞こえて、僕は身構えた。

「何か来る。」

「あぁ・・・粗方追っ手か仲間だろうよ。」

バリーは自分の肉体がある僕の方へと歩み寄って、敵だったときに迎え撃つための準備を整えた。

「あ・・・リザさん!アル!」

「遅かったね姐さん。」

やってきたのはリザさんとアルだった。

「!? 腐敗臭?」

「へっへっへ、みっとも無ェもの見せちまったなァ。見ろよ俺の肉体こんなに腐っちまってよゥ・・・バリーの肉体によそ者の魂をぶち込んだからズレが生じたんだろうよ。元々別だったもの同士だ、反発して当然だわな。」

アルを見る。表情の変化などあるはずのないアルは、真っ白な扉を見上げていた。

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