▼ 26 pieces
エドとアルがリンと黒装束と知り合い、というか派手に喧嘩しあった仲だったようで、僕はすんなり解放された。エドとアルは僕と違って一文字たりとも賢者の石の情報を教えようとしなかったらしく、僕がそんな彼らの仲間だと知ると、あきらめてくれた。なんだか知らないが、こいつら、エドたちについていく気満々なようだ。僕は関係ない。
「マジで知らない?」
「知らないっテ。」
「紹介してくれたらマジで教えてやってもいいけど?」
「教えるな!」
「おいおいじょーだんだって。リン達もわかってるから食いついてこないだろ。」
先ほど僕はシンに行くと決めたことをエドとアルに話した。できれば通訳が欲しいということも言ったので、エドが僕の口からつい出てくる嘘にいちいち反応をしてくる。というのも、現在エドはウィンリィに機械鎧を整備してもらっており、声からしか様子をうかがえないからだ。
「あんたは何でもかんでもオーバーなのよ。」
はあ、とため息をつきつつも作業の手は決して止めないウィンリィの方を僕はぼーっと見つめる。呆れた様子だけど、エドのことを心から心配しているのだろう。
「ケイト?どうしたの?」
僕の視線に気づいて、ちらりとこっちをみたウィンリィと目があった。淡く笑みを向けると彼女がぽっと赤くなる。あ、これはまだいける。僕はエドをからかう目的で甘い言葉をかけた。
「ウィンリィに心配してもらえて、しかも君の綺麗な顔を間近で見れるエドが羨ましいなあって。」
「おいケイト!」
「そ、そんなケイト!」
ウィンリィの顔が真っ赤になって、エドが怒り出す。
「そうだネ!やっぱり俺の嫁にこなイ?」
リンに目配せをすると察してくれた彼も便乗した。
「てめーらいい加減にしろよ!」
起き上がれないエドをいいことに僕らはウィンリィを口説き続ける。
「いや、国際結婚よりもさ、やっぱ僕の方が価値観合うだろうし、どう?」
「ケイト、でも私たちあったばっかりだしっ、」
「愛に時間も国も関係ないヨ。」
「国はともかく賛成!」
「ちょっと二人ともからかうのはもう、」
「からかってないよ。僕は本当に君のこと、特に仕事に熱を注いでる姿は綺麗だと思う。君みたいに明るくて凛とした力強さがある人をお嫁にできたら、とても幸せだよ。」
「・・・っ!」
ウィンリィは言葉も出ない。僕はというと、自分は女のはずなのに彼女のいいところをあげていくうちに本当に彼女のことが魅力的に見えてきていた。ふわふわと僕の頭がぼんやりとしてきて、ウィンリィに釘付けになる。エドをからかうことなどもう頭になかった。僕は立ち上がった。僕を見つめるウィンリィの方へと一歩踏み出す。
その時、奇妙な映像が僕の頭に流れ込んできた。ガーフィールさんの店の前を掃除するウィンリィ。ラッシュバレーの強い日差しを見上げて、微笑む彼女。肌が太陽に反射して薄ぼんやりと光っている。まるで誰かの記憶のようで、そこには誰かの甘酸っぱい感情が伴っていた。もし僕がこの光景を知っていたら、自分のものだと勘違いしそうだった。知らなくてよかった。
「黙って聞いてりゃ・・・!」
エドの声でふわふわがパチンと解けた。僕ははっとしてエドの方をみる。エドは怒りで顔を赤くし、怒鳴った。
「ウィンリィ!こいつは女だ!」
「へっ。」
「エ?」
「あ、いや、」
エドがついにその事実を暴露した。僕は一瞬なぜか否定しそうになった。
店は、奇妙な雰囲気に包まれて、エドだけがざまーみろという表情で鼻息を吐き出していた。
*
「はあ、もう。騙されるとこだったわ。」
リンたちとウィンリィの驚きの嵐が収まったものの未だに驚きが消えきれないウィンリィの言葉に僕は謝った。
「いやあ、ごめんごめん。でもウィンリィを褒めたのは本当の気持ち。」
「あ、ありがとう。」
複雑な表情で受け取るウィンリィを見てエドが鼻を鳴らした。僕はエドに何か言おうと思ったけど、そういう気分じゃなくなっていたのでやめた。かわりにアルの方を向いて目配せした。
「僕ちょっと外散歩してくる。」
「あ、じゃあ僕も!」
アルはきちんと気がついたようで、一緒についてきてくれた。
「気をつけろよ。またこいつらみたいなやつに会わねーようにな。」
出かける前にエドがリン達を皮肉る。アルはエドを咎めてリン達に謝った。僕はエドにじっとりとした視線を向けて、店を出た。
「それで、どうしたのケイト。」
「エドが聞いたら変な勘違いしそうだったからアルだけに話そうと思って。」
「それって、ウィンリィのこと?」
「も、関係ある。」
僕はアルに、ウィンリィのことを恋愛感情で見たこと、でもその後に現れた自分の記憶にないウィンリィの姿と覚えのない感情で、それは自分のではないと気がついたことを話した。
「どう思う?」
「うーん、誰かの記憶も一緒に取り戻しちゃったのかな。」
アルのその言葉で、僕はエドがアルに全て話したのだと気がついた。
「でもそう考えると時期が合わないんだ。」
話す手間が省けたしよかったと考えることにした。本当は自分から話したかったけど。
「僕はダブリスに発つ前に記憶を取り戻した。ウィンリィはまだガーフィールさんのところでは働いてない。」
「それじゃあ、ウィンリィが働き始めた時から今までで店を訪ねた人の記憶?」
「かな。可能性は兄さんのっていうのが高い。でも普通ありえないだろ?まあ、そんなこと言ったら、」
「『ありえないことはありえない』」
「だし。」
グリードの言葉を引用するアルと顔を見合わせて、僕らはため息をつく。
「とりあえず、ガーフィールさんとウィンリィに聞いてみるしかないよ。」
「そだね。サンキュ、アル。やっぱアルのほうが色々分かってくれるな。」
こつり、と拳を軽くアルの鎧にぶつけて、僕はにっかり笑った。
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