追憶の錬金術師 | ナノ


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兄さんは多大な犠牲を払って機械鎧を手に入れたのだろうか。

「あらあ、あんたあのロイドちゃんの妹?あの子に似てイケメン顔ねえ!」

ウィンリィと再会してエドがやられたりといろいろあった後、ウィンリィは材料調達へ、エドとアルは暇つぶしへ出かけ、ようやく落ち着くことができた後にガ―フィールさんと話すことが叶った。そして彼もしくは彼女に自己紹介したところ少し嫌な想像をしてしまう発言をガ―フィールさんから聞いた。
人を性別と見た目で判断してしまうのはよくないことだが、彼(ということにする)はきっと客である兄さんのプライドか貞操を奪ったに違いない。十分なお金のなかったカーティス家と兄さんに対する同情から兄さんの機械鎧代をまけてあげたのではなく、兄さんがきっと足りない分を体で支払ったのだ。

と、妄想はここまでにして。

「ロイドちゃんは大体三か月ごとに来るわよ。」

彼が言うには、兄さんは各地で医療錬金術で生計を立てながら研究を進めているらしい。機械鎧整備で必ず訪れるラッシュバレーを研究の本拠地としているようだ。

「こないだ来たばっかりだから来るのはまた3か月後くらいかしら。」

「どこに行くとか何か言ってました?」

「シンに行くって言ってたわよ。砂漠越えするっていうから熱暑(ねっしょ)用の機械鎧にしてあげたわ。あっ、だからロイドちゃん、もっと長く来ないかもって言ってた気がするわ。」

「シン・・・?」

シンに何かあっただろうか。過酷な砂漠を超えてまで、シンで手に入れなければいけない何かがあるのだろうか。

「結構秘密主義な子だから、これでも教えてくれた方よ。」

長い付き合いなのだから親しくしてくれてもいいのにと不満げなガ―フィールさんをみて、それはきっと無理だろうと思いながら僕は笑顔で感謝を述べた。

「ん?なんか外騒がしいわね。」

一度会話が途切れたときに外で大きな音がして、二人で外を見た。街中で何か破壊音やら爆破音が響いている。

「エドとアルが暴れてるんでしょう。」

「あら、大丈夫かしら。」

「大丈夫ですよ。」

このくらい派手にやれるのはエドとアルくらいだろうと僕は検討をつけた。あいつらは間違っても死んだりしないだろうし、多少の怪我は心配しないことにしている。まあ、僕も怪我することが多いから人のことを言えないっていうのもあるけど。

「機械鎧壊さないといいけど。」

ウィンリィと再会した時のエドの惨劇を知っての彼の発言に、僕はようやくエドのみの心配を始めた。



*



ふらりと現れた変な装束の男は変なイントネーションでしゃべる怪しげな奴だった。

「こんにちハー。」

「ん?ガ―フィールさん、お客だよ。」

「いヤ、違う違ウ!俺はエドワードの友だチ。」

「友達?お前どこ出身なの?なまりひどいけど。」

「シン!」

「おっ、タイムリーな奴がきた。」

エドにシン出身の友達がいたかどうかは怪しいが、ちょうどいまシンについて知りたいと思っていたところだったので、信じた振りをして受け入れることにした。

「ま、座りなよ。」

「お、ありがト。」

まず僕らは名を名乗りあって、握手をした。リン・ヤオという名のシン出身の男は胡散臭いがシン国の皇子らしい。

「で?シンから来たって、それはまたどうして。」

「錬金術を勉強しにネ。」

「へえ、錬金術って、シンにはない技術?」

「そウ。こっちでは錬丹術っていう、医学方面に特化した技術はあるけド。」

「ふーん・・・」

さっそく僕が欲しかった情報が手に入って、僕は興味なさげなふりをしながら頭の中で考えてた。
兄さんはきっと、医療に特化した錬丹術の技術が欲しくてシンに行ったに違いない。そして研究好きの兄さんは満足いくまで帰る気はないだろう。追うしかない。

「ねエ、お兄さんも錬金術師?」

「ん?うん。」

あ、男と間違えられた。と思いつつ僕は頷く。

「じゃあ賢者の石知ってル?」

「知ってるけど?」

「あ、そうなノ?じゃあ教えてくれたりしないかナ。」

「それなら、だれか通訳として僕と一緒にシンに行ってくれる人探してくれたらいいよ。」

「えー、難しいナ。」

「じゃあ嫌だ。錬金術のこと知ってるなら、等価交換だって知ってるだろ?」

「じゃア、」

賢者の石という名が出てからリンの雰囲気に変化が生まれ、僕と彼の間に緊張が生まれたのを、わざわざ僕が無視してしゃべってやったというのに。リンはぱちんと指を鳴らして、さらにその緊張を高める行動に出た。

「お兄さんの命と等価交換ってのはどウ?」

「・・・まぁ、確かに釣り合うわな。いや、僕の命の方が軽いな。」

黒装束の二人が両側から僕に刃物を突き付けてくる。冷汗が一筋流れるのを感じ取りながら、僕は余裕を装った返事をした。

「どういう意味ダ。」

しわがれた老人の声が片側から僕に問いかけてくる。もう片方は若い女だが、一言もしゃべる気はないらしい。心なしか、顔がさらされているのを恥じているようにも思う。素性がばれるのが、もしくは素顔をさらすのが嫌なのか。

「そのまんまさ。」

冷汗だらだらなせいで、敵に僕が余裕のないことがバレバレなのは分かっているけど、そういうふりをするのが止められない。

「貴様!若の前でのらりくらりト・・・!」

ぐ、と老人声の方の刃物が僕の首筋にぴたりと当たる。この刃物が特殊な形状をしていて、投げるのにも持ったまま敵と対峙するのにもしかもひもを結びつけてどっかにひっかけるのにも便利な物っぽい。ひもが通りそうな場所に彼らは自分の指を一本通しているから、叩き落そうとしたくらいじゃ落ちそうにない代物なので、うかつなことができない。

と。

「ちょっとあんたたち何やってんのよ!」

「あ、ガ―フィールさん、大丈夫。この人僕の異国からの友達で、今遊んでるところなんで。見てくださいよ、この武器。レプリカだけどシン国の特殊な武器なんです。」

「あら、そうなの?」

「ええ。僕は少し体術をかじってるので、この状態から防御が難しいことを身をもって体験しようと。」

「ちょっと物騒ねえ。」

「レプリカなので、御心配なく。」

「そお?じゃ、あたしお茶持ってくるわね。」

「ありがとうございます。」

ガ―フィールさんは奥に引っ込んだ。僕はふう、と一息。

「どうして助けを求めなかったんだイ?」

その質問来ると思った。僕がガ―フィールさんと話している時、リンが黒装束二人に目配せをして少し刃物を緩めさせていたのに気が付いていたので、僕は完璧に悪い人間ではないと察して、"遊び"を貫いたのである。

「まず、君らが彼を人質にしたらやばいだろ?それに、僕はきっと、それでも賢者の石のことは話さなかっただろうね。だって彼と僕の命だけじゃまだ等価交換じゃない。」

「なぜそこまで等価交換に拘ル!」

しわがれ声がちょっと耳について、僕は眉を顰める。

「言ったろ、僕は錬金術師だって。」

「自分の命が惜しくはないのかイ。」

「そりゃ惜しいさ。だけどどうして僕がこうして等価交換に拘るのかには理由がある。」

僕はリンを睨み付けた。リンが驚きで目を見開く。なんてほっそい目。

「第一に、君らは情報を引き出すために僕の命は取らないという確証があるから。」

「・・・・」

それは少し考えれば誰にだってわかるセオリーだ。僕は体も心も冷汗だらだらだけど、脅しだけでパニックになって考えられなくなるほど馬鹿じゃない。

「第二に、賢者の石に関する興味深い言葉と等価交換を結びつけることで君らの質問を少しずつ賢者の石から遠ざること。」

「っ!」

全員が一瞬息を呑んだ。そりゃそうだ。気づかぬうちに少しずつ自分らの知りたいことから遠ざかっていたのだから。

「そして第三に、時間を稼ぎ、君らの勢力と拮抗するだけの僕の味方を待つため。」

「なにっ。」

僕は目線を後ろに向けようとしつつ、三番目の理由を話した。
リンはこの黒装束がいるためか驚きはしたものの動くことはせず、僕に刃物をむけていた黒装束の内、しわがれていない方が、店の外の方へ警戒を現した。

「あっ、お前ら!」

「って、ケイト!?」

本当に来るとは予想していなかったけれど、ベストタイミングでエドとアルが帰ってきた。

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