追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 24 pieces

いつだって僕が望んでいたのは、誰かのぬくもりだった。

記憶を失っても、取り戻してからも、記憶を失う前だってそう。

僕の行動基準はただそれだけだった。失いたくなくて、禁忌に触れて、結果失い、また求めてさまよっている。

彼らもきっと、そうだったのだろう。日の当たる場所に居場所などなくて、一人でさまようのはただ辛くて、行きついた場所がグリードだった。彼らにとってぬくもりのある場所だったのだ。それを僕らはぶちこわした。正確には僕らじゃない。でも、軍の狗としてかかわりがある以上、僕らはこの重みを受け止めなければいけない。父さんがイシュヴァールで戦死したとき、僕はまだ小さかったけど、父さんを戦争へ連れていった軍を恨んだ。以来、軍属の服を見るだけで嫌な思いがしたのだ。だって父さんが死んだのは、味方が起こした爆発に巻き込まれたからだった。
そのことを思い出した今、それでも僕が国家錬金術師を続けているのは単純な等価交換によって生じた取引のせいだ。
彼らが要求したのは、軍属であり続けることと、ホムンクルスの邪魔をしないこと、ホムンクルスのことを他言しないことである。だから僕はエドとアルにホムンクルスのことは一切話してはいない。僕が彼らとかかわりがあることを知ってどう思われるかが怖いという理由もあるけど、ホムンクルスとの取引を反故にしたのがばれたら、母さんと父さんが危なくなってしまうというのが一番の理由だ。大切な人を危険にさらすなんて、そんなこと僕にはできない。

「エドとアルは一旦ラッシュバレーに行くのはわかった。で、ケイトはどうするんだい?」

カーティス家へと戻り、夕飯を食べながら僕らは今後について話した。エドとアルは機械鎧の修理のためにラッシュバレーに行くらしい。

「兄さんの手がかりを探そうかなって。」

「そうか。ならこいつらと一緒に行くといい。」

「ん?なんで。」

「ロイドはラッシュバレーで機械鎧を作ったんだ。たぶんそこから手がかりがつかめる。」

ロイドとは兄さんの名前である。
人体錬成をしたあの日。血を流しながら母さんのもとへ訪ねた兄さんは、すぐさま病院へ連れていかれ、両腕の治療をしたと母さんは説明する。その後兄さんは、母さんに肉屋を示した地図と『母さんによろしく』というメモを書かせて眠る僕の隣に置かせに行ったらしい。

「どうしてそんなまどろっこしいこと。」

「ケイトに人体錬成をしたことだけは知っていてほしかったって言ってたよ。ケイトはそのことだけは覚えていたみたいだけどね。」

兄の世話はメイスンさんが大体行っていた。そして三日目の朝、僕が現れた。母さんは三日間ずっと僕を心配していて、僕が帰ってきたとき冷静さを保つのに必死だったという。

「冷静じゃなかったらいろんなことを口走ってしまいそうだったしね。」

僕がカーティス家でお世話になっている間、兄はダブリスの病院で療養していた。そしてある日、ラッシュバレーで機械鎧を作ることを決めたという。リハビリ後、旅立った兄さんからの連絡はお金以外何もないらしい。

「ロイドは今、錬金術で飯を食ってる。機械鎧代をこまめに送ってくるのよ。場所はいろいろで、転々としているみたいだし、ラッシュバレーに行くだけじゃ手がかりは見つからないかもしれないけど。」

「いや、」

エドだ。先ほどまでずっと、母さんばかりが話していたので、ふっと沸いて出たかのようなエドの声に話を聞いている全員が注目した。

「機械鎧は定期的に整備が必要だ。機械鎧の整備は大体専属の整備士に頼む。きっとロイドも、あいつだって定期的にラッシュバレーに行ってるはずだ。」

「そうか。もし兄さんがその人に近況を話してたら大きな手掛かりだ。」

「希望はあるよケイト!」

「うん。サンキューな。」

自分のことのように喜んでいるアルと情報をくれたエドに向け、僕はお礼を言った。

「じゃっ、みんなでラッシュバレーだな!お前も一緒にウィンリィに会いに行こうぜ!」

「おっ、ウィンリィがいるのか。楽しみだな。」

ウィンリィがラッシュバレーにいることは初耳だったので、僕は少し気分が浮いた。前回あったときとても好印象だった覚えがある。

「ウィンリィ、ケイトにちょっと赤くなってたもんね。」

「そうそう。だからエドのことをからかえるんだよなー。」

「は?どういう意味だよそれ!」

「そのまんまさ。な、アル。」

「ねー、ケイト。」

アルと顔を見合わせて、それからエドの方へ意地悪い笑みをむける。エドは少し顔を赤くして喚きだし始めた。

「お、おお俺は別にウィンリィのことなんか!!」

「ああはいはい、ウィンリィのことが大好きなんだねー。」

「ち、ちっがあああう!!」

「無駄な足掻きだよ兄さん。」

「そうそう。」

「だからちげーって!」

他を一切聞かないためにわーわーと連続で喚きだした。さすがに収集が付かなくなってきたしうるさいしで、エドが面倒になってきたので静めることにした。

「よし、わかったわかった。落ち着けエド。」

もちろん一度暴走しだしたエドを止めるのはこんな収め方では無駄である。僕が薪をくべたエドの釜戸の火を静めてくれるのは、母さんしかいない。

「うるさい。」

「ぎゃん!」

母さんの裏拳がエドに炸裂する。エド撃沈。

「ちょっと燃料与えすぎちゃったな。ありがと母さん。」

「こいつがエネルギー全開なのはいつものことだ。」

ふう、とあきれ気味なため息を吐く母さんに僕は苦笑した。

「あ、そういえば兄さんの機械鎧整備士の名前とかわかる?」

「もちろん。ガ―フィールっていう名前。」

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