追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 16 pieces

僕は自分の研究の暗号をきちんと整えつつ清書をしていく。
リゼンブールでのエドの機械鎧に関する研究や、他にも試みては失敗した研究達のことも、きちんとあますとところなく書いた。
この清書は傷の男がエド達の前に現れたときにしようと思っていたことだった。そこからさらにリゼンブールで研究が進んだから書きたいことは山積みだ。
はじめは記憶を取り戻すためにはじめた研究だったけれど、きっとこれは僕のライフワークなのだろう。

「ケイト、入るよ。」

清書の途中、母さんがノックをして僕の部屋に入った。清書の手を止め、僕はドアのほうへ振り返る。

「ちょっと休憩したら?」

といって僕の机にコーヒーを置いてくれた母さんは、僕が清書し終えた束を見て少し目を見開いた。

「随分研究進んでるみたいだね。」

「うん。軍の機関だと色々させてもらえるから。」

母さんが眉をひそめるのが分かっていて僕は軍という言葉を出した。

「・・・まだ、軍の狗を続けるつもり?」

「まだ知りたいことが山ほどあるんだ。」

僕は自分の部屋を見回しながら軍の狗を続ける理由を一つだけ言った。僕の部屋には本棚がいくつもあって、その本棚に納められているのは全て錬金術関連の本だったり、自分の研究成果だったりする。もうそろそろ本棚を増やしたほうがよさそうだなと僕は胸中でつぶやいた。

「そう。」

母さんもしばらく僕の視線を辿っていた。僕はからっとした笑みを浮かべて置く。

「・・・無理すんじゃないよ。」

母さんはそれだけ言うときびすを返して部屋を出た。
僕は母さんの背中に向かって伝えてみようかとも思ったけれど、この清書が全て終わるまではとこらえた。

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