追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 15 pieces

僕はエドたちを見送った後にダブリスへと行く列車に乗った。
久しぶりの一人旅。しゃべる相手はもちろんいないので、ぼーっと外の景色を見つめるばかり。だけど一人だからいい。列車の中だけでも人との些細なつながりを絶っておきたかった。最近はエドたちと関わっていたせいで、騒がしすぎたのだ。

だんだん日差しが強くなって、窓際が熱くなってくる。僕は窓際から離れて、しばらく眠った。
目を閉じると、耳奥から幼い子供の声が聞こえた。


*


「へいらっしゃーい!」

肉屋の中へと入ると、メイスンさんの声が響いた。
こちらへ振り向きながら、いらっしゃいと挨拶をしたメイスンさんは僕を見るとぱっと顔を明るくした。

「ケイトちゃん!いやーおかえり!」

「ただいまメイスンさん。」

メイスンさんはすぐに父さんを呼んだ。

「ケイトか。おかえり。」

父さんは僕の短髪をわしわしと撫でて、ぐっちゃぐちゃにした。

「ただいま父さん。」

僕はちょっとだけ笑みを浮かべる。

「はやくイズミに顔を見せてやれ。」

「うん。」

僕は父さんと一緒に母さんのところへと向かった。
母さんはベッドで寝ているらしい。具合が悪いのかな。

「イズミ。ケイトが帰ったぞ。」

窓から事前にそう伝えて、父さんは僕と中へと入った。

「ただいまー。」

僕はおそらくこの言葉を半年ぶりに口にした。だからと言ってなにか感慨がわくわけでもなかった。

「おかえりケイト。」

母さんの声が寝室の方から聞こえてきた。そちらを見ると顔色がよさそうな母さんの姿があった。

「半年ぶりだね。見ない間に少し男っぽくなったか?」

「それ褒め言葉だよ。」

母さんとはやっぱりこんな会話をすることが多い。淡々と短い言葉の応酬。そしてあらかた近況報告を終えると、少しだけ話のリズムが変わっていく。

「それでどうしたのよ急に。」

母さんはさっさと本題に入っていく。

「ちょっと研究資料を整えに来たんだ。」

「ああ、あの記憶の。」

「うん。そろそろ、ちゃんとしたのに残しておこうと思って。」

「ならしばらくはいるんだね?」

「うん。その間お世話になります。」

「家事は手伝ってもらうよ。」

「もちろん。」

僕は、滞在する間いつ本当の用を言おうかタイミングを図りあぐねていた。

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