追憶の錬金術師 | ナノ


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僕は錬金術師でありながら、よく非科学的な考えをする。
今日はついている、ついていない。靴を足で飛ばしたら裏になったから明日は雨だ。北枕はよくない。
こういうのは自分の気持ちを、自分で上げ下げしているようなものだ。ばかばかしいというのは僕自身も分かっている。だけどどうしても考えずにはいられない。
今回の件もそうだ。第一分館の焼失。しかも僕らが到着した少し前に焼けてしまったとなると自分の未来について案じるのも無理はないだろう。

僕は賢者の石の材料を知っている。だから僕には第一分館のマルコーさんの資料に特別魅力を感じなかった。賢者の石の精製方法を調べたって、結局僕に人殺しなどできない。
そしてだからこそ、マルコーさんの資料を復元できるという、シェスカさんが現れてくれたところで僕の気持ちが上向きになるはずもなかった。
エドワードたちは嬉々としてマルコーさんの資料を受け取り、大金を払い、解読に取り掛かっていたけれど。

「ロス少尉、僕、行きたいところがあるんだけど。」

いくら気分が上がらないとはいえ、時間は無駄にできなかった。僕はエドワードたちがマルコーさんの資料を解読している間に、別のことをやっておきたかった。

「どちらにいかれるんですか?」

「ちょっと、買い物に。」

「わかりました。ついていきます。」

「や、一人で大丈夫かな。なんか悪いし。」

「お気になさらず。」

「・・・やっぱ、買い物はいいや。」

「? そうですか?」

「うん。」

どうやら堂々と一人で行動するのは難しいようだ。
僕は、第五研究所に行こうと思っている。賢者の石を作るためにはそういう施設が一番怪しいし、第五研究所は材料調達の面でも条件が良かったからだ。
けれどその第五研究所は、軍が関係しているし軍の秘密とやらを彷彿とさせて、危険な匂いがぷんぷんしていたので、表立たないよう一人で行こうと思っていた。
一応確認したけれど、やっぱり昼間は無理なようだ。夜にこっそり行くしかないだろう。
と思ったら。

「む? どこへ行くのだケイト!」

僕はあっさりアームストロング少佐に捕まった。
これもきっと、僕が今まで散々運を使ってきたせいだと思う。よりによって、忍び出ようとしたそのときにアームストロング少佐に見つかるなんて。ロス少尉でもブロッシュ軍曹でもなく、アームストロング少佐に、だ。

「夜間に人知れず行くとは、どうしたのだ。」

「別に・・・ちょっと散歩。」

「ならば昼間に、少尉か軍曹と行けばいいではないか。」

「一人が良かったんだよ。」

アームストロング少佐は、すごくたちが悪い。納得するまで解放してくれないからだ。
実は今の質問は堂々巡りして何度か回って来たものだ。

「なぜ一人が良かったのだ?」

少佐の質問は、同じ口調で粘り強く繰り返されていた。

「一人で外の空気吸いたかったんだよ。」

僕はだんだんいらいらしてつい声を低める。僕自身には自覚はないけど、声が低いときの僕は人一倍怪しげに見えるらしい。
そのことを思い出したときにはすでに少佐から疑いの目を向けられていた。

「・・・あやしい。」

少佐がこういったとき、皆一様に白状するのはなぜなのだろう。



*



結局僕も白状せざるを得なかった。
第五研究所へいくこと、賢者の石について調べたいこと。流石に賢者の石の材料など重大なことは言わなかった。
しかし、忍び込むともなればそこに危険な匂いを感じたらしく、少佐は鼻息を粗くして僕を怒った。

「今後、護衛の任務が解かれるまでロス少尉と寝るときも一緒に過ごすのだぞ。」

といわれてロス少尉が使っている部屋に放り込まれたのは明け方近くだった。僕は流石に逆らう気力も失せていて、ロス少尉が明け方近くに起こされたにもかかわらず床に寝る支度をしてくれたら、すぐにそこに横になって寝た。少佐は罰として僕にベッドで寝ることを禁じたのだった。

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