追憶の錬金術師 | ナノ


▼ 10 pieces

『僕は今まで気にしてなかったけど、聞けてよかった。気を遣わせて悪かったな。それとありがと。』

ロックベル家に来て、三日目。
昨晩は、記憶を失って三年も経ったのに初めて知った事実に驚かされもしたけれど僕の周囲の人の気遣いにありがたいと思った日だった。
今日はエドワードの機械鎧が出来上がったので、それの装着日である。

「なあ、エドワード。前に言ってたあれ、やっちゃだめか?」

前に言っていた"あれ"というのは、機械鎧の装着時に襲う激痛をカットするという錬金術だ。理論上は、一定時間ある場所の感覚神経から脳に向けて発生する信号を吸収して脳が痛みを認識しないようにするというものだ。

「片方だけでいいんだけど。」

頼み込む僕に、エドワードは首をかしげる。

「でもお前、列車の中でやらないみたいなこと言ってなかったっけ。」

「いや、やってみたくなったっていうか。」

「まあ・・・俺にとってもあんまり悪い話じゃないしいいけど。」

「ほんとか!」

「ああ。」

「サンキュ!」

僕はうれしくて思わずエドワードに抱きついた。

「ばっ!お前やめろよ急に!」

顔を赤くするエドワードにかまわず、僕は満面の笑みを浮かべる。

「実はこれ、他人に試すのはじめてなんだよ。だから本当にありがてぇ!」

「・・・は?」

「男に二言はないよな?エドワード。」

逃げ出せないようにエドワードのスペアの足を抜き取りながら、僕は言った。

「やっぱやめ、」

エドワードが顔を青ざめさせて逃げようとするが片足が現在無い状況なので逃げることはもちろん叶わない。

「ウィンリィーー!準備いいかー?」

僕はエドワードを押さえつけてウィンリィを呼んだ。

「準備オッケーよ!」

目を輝かせているウィンリィに僕は満面の笑みを向ける。ウィンリィがさっきのエドワードみたいに顔を赤く染めた。
ウィンリィが機械鎧が大好きなように、僕は僕で、錬金術が大好きで、そしてさらにそれが人のためになると分かるとうれしいのだ。

「くっそ、後で覚えてろよてめぇ・・・!!」

未だなおじたばたと無駄な足掻きを続けるエドワードに僕はにぃ、と笑う。

「安心しろよ。楽にしてやっから。」

「おい、殺す気か!?」

「んなわけないだろ。ほら、おとなしくしろ。」

僕はそういって右手でエドワードを抑えながら左手で紙に書いた錬成陣を取り出した。エドワードの右腕の付け根にそれを張る。

「一応、効果が続くのは3分。それか錬成陣をはがすまでだよ。」

そういって僕は発動させた。

「おまえ!・・・・発動させる前に言えっての・・・・」

もはや抵抗しても無駄だと観念したエドワード。僕はそれを確認してからウィンリィに目配せをした。

「じゃ、いくわよ。いち、に、さん!」

エドワードに覚悟をさせる暇も与えず、ウィンリィは機械鎧をはめた。

「・・・・」

ぎゅっと目をつぶっていたエドワードが恐る恐る目を開ける。やつは自分の右腕をみると、ぱちりぱちりと瞬きを数回した。

「いたく、ない・・・いたくねえ!」

「おいエドワード、どっかおかしいとこないのかよ?」

「どこもねぇよ?」

「ほんとか?うそいうなよ?」

「ほんとだって!」

「うぉっしゃぁ!!」

僕は思いっきりガッツポーズをして叫んだ。

「脚もするか?な、エドワード。なあなあ!」

「〜〜〜っ、好きにしろ!」

子供みたいにはしゃぐ僕に、エドワードは心底うんざりしたような顔をしてそういった。


*


それから、発動をした後の組み手に僕も参加させてもらって、エドワードのその後の経過は大丈夫だとこの目でしっかりと確認した。
その日の夕食は、格別おいしかった。なんてたって、僕の新しい錬金術が成功したのだ。おいしくないわけがない。

僕はここでの自分の錬金術の成功はきっと次なる大きな進歩の暗示だと信じてやまなかった。
だってマルコーさんと出会ったときから、僕はいろいろとついてる。今僕の周りは幸運でいっぱいなはずだ。

ウィンリィ家を出発して、可愛いウィンリィと闊達なピナコさんと別れる少しの寂しさよりも、そういう希望が僕には満ちていた。

「・・・・・」

ただ、僕は違う見方も考えることになる。
もしかしたら、僕のつきは今までの中でなくなってしまったのではないかと。

燃えてしまった第一分館はその象徴に見えて仕方なかった。

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