香る纏う花の色 | ナノ

もやもや

「お、ユウ、これから任務?」

おまちどん、とジェリーから受け取ったBセットを手に座るところを探していたら丁度ユウの周りが空いていた。相変わらず気難しい奴だし怖いしみんな遠巻きにしている。

ユウが食べていたのは天ぷら蕎麦。任務の前は食べるとかって言ってたんで覚えてた。

「・・・ああ。」

呼び名については突っ込まれず、半ば上の空な返事が帰ってきた。こんなユウは珍しい。

そこに触れるとキレられると思ったので敢えて口にしなかったら。

「・・・お前、ユリアってやつと知り合いだろ。」

と。ぼそぼそと歯切れ悪く聞かれた。

うん、まあ。と俺も歯切れ悪く答える。

「あいつ、俺のことでお前になんか言ってたりしないか。」

無表情だったが目の色が心配そうにしている。ここは下手に何か言うよりもありのままがいいと思ってそのまま伝えた。

「イノセンスの発動を制御できるようになるまで会うの禁止ってコムイが言ってたかんなあ。わかんないさ。」

「・・・そうか。」

俺が答えるとユウは残念そうにしてそばを食べることに戻った。

その一連の様子になんだかもやっとする。ユウの何にもやっとしたのか、自分でもわからない。でも、気持ち悪く腹の底を渦巻いて、吐きそうだ。

放置していたら喉の奥から吐き出されてしないそうだったから食事を押し込んで飲み込んだ。

なんだ、これ。と、心の中で首をかしげた時。

「あ、ラビ!」

ふわりとその明るい声にもやもやがやさしく吹かれて流されていった。ユリアだ。リナリーも一緒にいる。

「あれ?特訓終わったんさ?まだ一週間だぜ?」

「そうなの。ユリアは飲み込みが早かったから。」

リナリーが答えた。今度はユリアが、

「どんなもんだい、なんてね。」

そうおどけて言ったので俺らは一瞬きょとんとした後に笑った。そういえばユリアはまだ14歳だった。大人っぽい様子だったが歳相応の様子が本来のユリアなのだろう。

4歳、歳が離れていることを忘れるくらいユリアは一年の間に急成長した。心のほうもそうだが、体もその曲線がさらに艶っぽくなった。

「一緒に食べていい?」

「もちろんさ。」

俺の隣にユリアが、ユウの隣にリナリーが座る。ふわりと、何かいい匂いが漂ってどきりと心臓がはねた。ユリアの香りだ。その匂いも色艶があるように思えた。

歳が14歳だからと言って侮ってはいけない。14歳は大人の女に仲間入りできる。まだまだ純真で無知なだけなのだ。

これからきっと、彼女はもっと女らしく艶っぽくなっていくのだ。今の状態でも十分彼女の色香に心臓がはねたというのに、これ以上女らしくなれば俺は自分の気持ちを抑えることができるのだろうか。

「ラビ?」

「っ、ん?どうした?」

「深刻そうな顔してたから、どうしたのかなって。」

「ああ、なんでもないさ。」

顔を覗き込むユリアの上目遣い気味の瞳に驚いた。かっ、と顔が熱くなる。

こんな風なシチュエーションは一年前だってあったはずだがそのときはこんなことなかった。一年たった今になって、こんな気持ちを味わうことになるとは。ただ単に、ユリアが成長したせいなのだろうか、それとも俺が心の中で焦がれ続けてきたせいなのだろうか。

どちらにせよ、俺はこの気持ちを消す努力をせねばならないのだが。

「そういえば、ユリアのイノセンスってなんなん?」

頭の中を違うことでいっぱいにしようと思って話題を切り替えた。ユリアのイノセンスの情報は知ってて損なことはない。

「私のイノセンス?」

「教えてほしいさ。」

おそらくユウも興味がある話だろう。もしかしたら蓮の花についての何かヒントのようなものが聞けるかも知れないからだ。

そして俺の予想はきれいに的中した。ユリアがたとえ話を交えてイノセンスに説明してくれたときに蓮の花をたとえにあげてくれたからだ。蓮の花、と単語が出てきたときのユウは蕎麦を啜っていた途中に一瞬固まり、ちらりとユリアを一瞥した後静かに蕎麦を啜り始めた。

彼女のイノセンスについての説明は年相応の文章力で語られていった。リナリーがお姉さんらしく補足を加えながらの説明はほほえましかった。

「寄生型なのに、そんなには食べないんさね。」

「そうね。寄生型の人はたいていたくさん食べると思ってたけど。」

ユリアのイノセンスの説明の中で、彼女のイノセンスは寄生型だとあった。だが、寄生型にしては、食事の量が少ないと思う俺とリナリーでそんなことを話しているとユリアが首をかしげた。

「私、たくさん食べてるよ。」

「え?でもお昼ご飯は私たちと同じ量だわ。」

見たところ、ユリアの目の前にある食事は俺らと同じくらいの量だ。まさかこの量が彼女にとっては多いというのだろうか。

「ご飯はこれくらいしか食べないけど、お菓子の量が多いの。」

ああ、なるほど三時のおやつがあったか。と俺とリナリーは同時に合点した。

「一度お菓子の量を見てみたいわね。」

あ、俺も俺も!と、リナリーに続くように手を上げた。ユリアは量を確かめることの何が楽しいのかと不思議そうにしながらも小さくうなずく。

「じゃあ一緒に食べる?」

「そうしましょう。」

それから取り留めのない話をユウが蕎麦を食べ終わるまでし続けた。

なぜなら、ユウは一人での任務ではなかったからだ。

「おい。」

蕎麦の入っていた皿(ちなみにユウ専用の)を片付け、戻ってきたユウは談笑していた俺らの中のユリアに声をかけた。

ぴたりと会話がやんで、三人ともユウを見る。

「修行、終わったんだろ。」

「は、はい。」

さっきまで砕けたしゃべり方だったユリアが堅苦しい言葉に変わる。

「なら、食べ終わってから室長室こい。」

ユリアは背筋を伸ばして、うなずいた。おそらく初任務なのだ。ユウはきっとコムイあたりから、ユリアが修行を終えたようだったらつれてこいといわれていたのだろう。確かにユウは強いから初任務には安心できる存在だ。強さに関していえば、だが。

ユリアがユウと初任務にいく。またもや心の中でもやもやが渦巻いた。何かが気に食わなくて少しいらいらした。

食堂のわやわやとした喧騒の中。緊張したユリアの面持ち。お姉さんのように妹の初任務をほほえましくも不安げに見つめるリナリー。表情ひとつ変えず仏頂面なユウ。

俺だけ、その輪の中に加われていない気がした。俺だけ少しだけ外側にいるように思えた。そんなわけ、ないけど。そういうつもりでも、ないんだろうけど。

俺はさっきの背筋を伸ばしたユリアの姿が、ユリアじゃない別人に見えた。

「わ、わかりました。ありがとうございます。」

ユリアはしっかりと頭を下げた。ユウはそれを一瞥すると何も言わずに去っていく。

きっと初任務ね!どうしよ、私までドキドキしてきた。というリナリー。がんばってくる!と意気込むユリア。早く食べていかなくちゃとユリアは一生懸命リスのように食べ物を口に詰め込んで、さらにジェリーに大量のお菓子(ちなみにクッキー)をもらってから俺たちのところに来て、じゃあ、いってきます!といって小走りに去っていった。

リナリーが、かわいい、とつぶやく。それから不安そうに、でも大丈夫かしら、ともつぶやく。

俺はもやもやが邪魔して、ユリアを心配する気持ちにも応援する気持ちにもなれなかった。


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