香る纏う花の色 | ナノ

蓮の花

ラビと一緒に会場へと戻るとリナリーさんが待ちかねてそわそわしていた。

私の姿を見つけるとぱっと駆け寄る。

「もう、どこいってたの?」

「ちょっと外に。そしたら、ラビと会って話してたんです。」

「二人とも知り合い?」

「そうそう。ここに来る前にしばらく仲良くしてたんさ。」

そうだったの、と意外そうに大きな瞳をぱちくりさせたリナリーさん。

私と"ディック"の関係がラビになかったことにされなかったことに心の中で安堵する。

と。

「おいリナ。」

低い声が耳に心地よい響きをもたらした。リナリーさんの後ろから姿を現したのは、東洋人の美しさが光る男性・・・だった。(女性、かも・・・?)

「ああ、そうだった。」

睨んでいるのではないかと思うくらいの切れ長な瞳ににらまれても、リナリーさんは動じることなくその男性をまっすぐ見た。そして「ああ、そうだった」というその男性に対する少しぞんざいな扱い。リナリーさんツワモノ・・・!と心の中で尊敬する。

「紹介するわね。神田よ。―――神田、この子はユリア。」

その男性を紹介され私は慌ててお辞儀した。

「ユリアです、よろしくお願いします。」

「神田ユウだ。・・・チッ。」

い、いきなり舌打ちされた・・・!!

初対面ですよね、と確認したい。まだあって間もないから何もしていないはずなのに。

「もう、神田。失礼じゃない。」

リナリーさんは神田さんをもちろん咎める。やっぱりツワモノだ・・・・

「こんな感じだけど、任務では頼りになるから安心して。」

「えっと、はい。」

私がリナリーさんにそういった直後、ふん、と鼻をならしそっぽを向く神田さん。私はちらりと彼を盗み見る。

体の中心にまっすぐな棒が入ったみたいにすっと立つ人に見えた。そっぽを向いた先に注ぐ視線も、何もかも。

「っ!?」

突然、彼を中心に蓮の花がいっせいに咲き誇った。驚いて目を見開いて私は固まる。

床が蓮の花で埋め尽くされようかしていたのに、誰も気がつかない。瞬きをせずに神田さんの視線の先を追う。そうしたらその先にも蓮の花が咲いていて、一段と大きいように思えた。

その光景は、瞬きをした瞬間に消える。

「・・・?」

目をこする私をラビが覗いた。

「どうしたんさ?」

私は正直に答える。

「さっき、急に蓮の花が・・・」

「蓮だと?」

私の口にした蓮の言葉に神田さんが反応する。声がさっきよりも迫力があって一瞬体が固まった。

「おいてめぇ、蓮が何だ。」

「・・・ええ、っと・・・」

「言えよ。蓮がどうした!」

「ひっ・・・」

ずい、ずい、と言葉を発するたびに近づいて、最後には私の胸倉をつかみあげた神田さん。放たれる殺気と睨む瞳が乗算されてさらに怖い。引きつった声を上げて固まった私を慌ててラビとリナリーさんが助け出した。

「どうしたんさユウ。」

「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇっ・・・!」

じゃきん、と気がついたらラビの首筋に刀が突きつけられていてそこには鬼気迫る神田さんのがいた。

このままでは危ない。

「あの、さっきの質問ですけど!
蓮の花が一面に見えたんです。」

咄嗟に答えた。よくよく考えてみたら、この一連の流れは脅されて答えたみたいだ。

「・・・・・」

ぎろり、睨んだ神田さん。人相悪いわー・・・

「今は見えてんのか。」

「いや、今はもう。」

「・・・ならいい。」

神田さんはようやく刀をしまった。

半泣きのラビが心底安堵した表情を浮かべる。危ない危ない、流血沙汰になるところだった、と私も安堵。

「帰る。」

「あ、ちょっと神田!」

急に神田さんはそう言うとリナリーさんの静止も聞かぬまま早足で帰っていった。

「私、なにかしちゃいました・・・?」

「そうじゃないわよ、たぶん。」

「ま、ほっといたらいいんじゃね?」

ほっといていいのだろうか、と私は心配した。


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