香る纏う花の色 | ナノ

封印した恋心

アレンから聞いた。ユリアが記憶を取り戻したことを。
俺以外はみんな、ユリアが報告して回ったみたいだった。アレンは俺も知っていると思ってその話をしたもんだから、俺が知らなかったとわかって、少し気まずそうにした。

「あの……ユリアから他にも色々と聞きました。ラビが以前にいっていた『一緒になれないけど守りたい子』って、ユリアのことですよね。どうして一緒になれないのかは、わからないけど」

以前に俺が言ったことばを思い出す。あのときは、ただ単純に、ユリアの記憶が戻る可能性が低かったから、一緒になれないけれど守りたいと言った。今もその気持ちは変わらないが、一緒になれないの意味合いはもうすっかり変わっている。記憶が戻ろうと戻るまいと、俺はユリアとは一緒になれない。

「……咎落ちって、知ってるさ?」

アレンになら、という思いがどこかにあったのだろうか。以前にも話してしまったように、俺は独り言のようにいった。

「イノセンス非適合者、もしくは、イノセンスを裏切った人間が受ける罰……。もし、咎落ちが起きれば、イノセンスは非適合者や裏切り者の命を食い尽くすまで暴走し続ける。周囲に膨大なエネルギーを撒き散らして、周囲のものを見境なく破壊してしまうんさ」

俺はまだ、記録だけでしか咎落ちを知らない。忌まわしき教団の過去が産み出した数多の咎落ちの数々。

イノセンスという神の結晶の純粋無垢さが、純粋であるがゆえに一切の穢れを許さず、近づく穢れ、内なる穢れを無慈悲に排除してしまう、この現象には、まだイノセンス適合者に関しての記録は少なく、俺でも発現条件をしっかりとは把握していない。何をもって裏切りとするのかわからないのだ。

「ユリアが記憶を失ってしまったのは……ユリアのひとつめのイノセンスが、ユリア自身の咎落ちを予見したからさ。もしくは、俺が咎落ちの兆候を見せたユリアを、殺してしまう未来を」

「どういうことですか……!? ユリアが、咎落ちになるなんて、ラビがユリアを手にかけるなんて……!?」

「そんなん、俺が知りたいさ。ユリアはなんの脈絡もなく、その未来をみただけさ。それに俺は、ジジイから、ユリアが咎落ちって単語を聞いたときにイノセンスを発動させていたって聞いただけだ。何も分かるわけない」

「それじゃあ、どうしてラビがユリアを手にかけることに? ユリアの咎落ちにはラビが関わっているということですか」

「ユリアの咎落ちの話は、ユリアが俺とジジイについてって、教団を離れることで起こる可能性が高いんさ。俺たちと一緒にいるときにユリアが咎落ちになったら、俺もジジイも危ねぇ。だから、そうなるまえに、ユリアを殺すしかないってことさ」

「それは、ユリアもきちんと知っていることですか」

「記憶を取り戻ししたんだろ。なら知ってるはずさ。俺たちはユリアの前で、ユリアを殺す話してたんだから」

つい、なげやりな言い方になってしまう。

「俺は、ユリアがそうなる未来を阻止しなくちゃならねぇ。だからユリアとは一緒になれないんさ」

「……それじゃあ、ユリアはどうなるんですか。記憶を取り戻した今、ユリアはラビと一緒になりたいと思っていたらどうするんです」

「一緒になりたいと思ってたら、記憶を取り戻してすぐ、俺のところに来そうさ。でもユリアは来てない。それが答えさ」

「そんな……」

今のアレンの方がよっぽどユリアと恋愛をしている風に見える。ユリアの心配をし、ユリアが俺のことをもう思っていないことに落胆している。
俺は、むしろよかったとも思ってる。ユリアは俺を忘れて、死なない未来を約束できる相手と次の恋ができるのだ。
俺はもう、自分の気持ちにけじめはついている。ユリアのことはずっと好きでい続けるだろう。俺はただ、ユリアを見守り続ける。それだけなのだ。


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