香る纏う花の色 | ナノ

ラビの答え

もともと、イノセンス二つの適合者になることが特殊な事例だった。それらが適合者を守るために反発しあい、協力するようになった経過は、記録に値する。

俺らブックマンに情報が伝わらないわけがなかった。

ユリアのイノセンスが、協力関係を結んだ末に、ユリアの感情の記憶を封印したと知ったとき、俺はどうしてユリアが自分のところに来ないか、合点した。

感情がないなら、俺の答えを聞いても何もできない。

ユリアも俺も、最初に用意していた答えは、この恋愛を終わらせないためのものだった。
ユリアの咎落ちの予知を聞いてからは、俺の答えは恋愛を終わらせることだった。
あとは、ユリアの思いを断ち切るだけで、すべてが終わるはずだった。でも、ユリアには今、断ち切る思いがない。

だから、何もできない。ユリアは俺の答えを知って、受け入れたりも拒んだりもできない。そこに感情が生まれそうにないからだ。ユリアは、自分がどう返事すべきかもわからないし、できない。



***



「おはようさー」

朝の食堂で。

「ラ、ビ。おはよう」

ユリアは、俺がユリアのことを知っているのに気づいているのだろう。俺はブックマン後継者だし、これまで、ユリアのことだったら、積極的に情報を集めてきた。ユリアならお見通しだ。
それでも、俺は最初はなんでもない風に装う。そうでもしないと、ユリアには中々近づけなかった。

「今日は何もないんさ?」

「どうだろう。ここしばらくは、教団に一日もいないうちに任務が入るから……」

ユリアは最初こそ動揺を見せていたが、俺が自然に振る舞うと、少し自然になった。

「俺も同じさ。なんか最近AKUMAの活動が激しいよな」

「うん」

ユリアは、先程の動揺からすぐに落ち着きを取り戻して、平常になった。そこからは、ユリアが今緊張しているのかとか、そういうユリアの状態はわからなかった。

「なあ、ユリア。聞いてほしいことがあるんさ」

わからなかったが、俺は直球勝負に出た。朝食後、談話室へと移って、話をした。

「俺、ユリアが記憶が戻ったことも、感情が戻らないことも知ってるさ」

「うん」

ユリアは驚かない。やっぱり、ユリアはわかっていたのだろう。

「ユリア、それでも俺は、俺の答えを伝える」

「えっ」

ユリアが俺の答えを聞いて何もできないのはわかっている。でも、感情が戻っても戻らなくても、俺は終わらせなければいけない。ユリアとの関係と、未来を。

「もしこの先、ユリアに感情が戻ったとしたら、俺の今の答えを、そのまま覚えててほしい。俺の答えは変わらないから」

「……今は、私は受け入れるしかないけど、感情が戻ったら、またどうなるかわからない。それは、ラビにも覚えててほしい」

「わかった」

「それじゃ、えっと……お願いします」

改めて言うとなると、お互い緊張していた。俺は長い間ユリアに伝えられなかったことをようやく伝えられることに余計、緊張して、ぎゅっと拳を握りしめた。

「まず確認さ。俺たちは、ジジイに恋仲になるなら、覚悟を決めるように言われた。ユリアは、覚悟ができてるっていってた。でも俺は、一週間よく考えて、一緒にいきる覚悟を決めようってした」

ユリアが頷く。

「俺は最初、一緒に生きる覚悟を決めようとしたさ。でもそのすぐあと、ユリアは記憶なくした。それからしばらくは、ユリアの記憶が戻って、俺を好きだといってくれるなら、絶対にユリアと一緒に生きようと思ってた」

「今は、違うんだね」

「今は、ユリアとは何があっても一緒に生きるつもりはないさ。俺は、ブックマン後継者として、ユリアとは生きれない」

「それが、ラビの答え……」

頷くと、ユリアが戸惑ったように目を泳がせた。

「どうして?」

「簡単に言えば、気持ちが離れた」

「っ、そう……」

こう言わなければ、ユリアが感情を取り戻したとき、素直に諦められないだろう。そう思い、心にもないことを言った。

今のユリアでさえ、面と向かって好きじゃなくなくったと言われて、落ち込んだ表情をしている。きっと、ユリアは感情を取り戻したら、もっと傷つくのだろう。
そんなこと、これからあるわけないけれど、ふと想像して、胸が痛む。
でも、ユリアはまだ15だし、この戦争を生き抜けば、故郷にかえって、だれかと結婚ということもあろうる。俺のことなんて、すぐ忘れられる。

「……ラビ」

ユリアが、俺を悲しげに見つめた。

「ラビとブックマンが村を出るとき、私は二人を追いかけようとしたよね。そのときの自分の感情は思い出せないけど、ラビの表情は覚えてる。他の人から見たら、普通かもしれないけど、私からしたら、すごく、辛そうだった。今のラビも、同じ顔をしてる」

「!!」

きっぱり終わらせようとしている間際に、ユリアが見せたのは、俺が一番、ユリアに揺さぶられたものだった。いつも見破られては、俺に苦悩と救済を与えたそれは、まさに思いを封印しようとしている今になってまた現れ、見て見ぬふりをしようとした辛さをまざまざと自覚させた。

俺は、ユリアに暴かれてしまうことに、救われていた。暴かれ、それでも受け入れてくれたことに、救われていた。
ユリアから離れようとしているこのときに、まさか、俺がどれ程ユリアを好きか思い知らされるとは。

平静を保つことができず、俺は顔を背ける。

「今、ラビがこう言うのには、覚悟があったって、わかる。だから私は、これを受け入れるよ。感情が戻ったら、どうなるか、保証はできないけど」

「…………」

「そのときは、また、ちゃんと話し合おう」

俺は頷くことしかできなかった。ユリアにこれ以上、俺が戸惑う姿なんか見せたくなくて、何も言えなかった。
どうせユリアは、全てをその目で暴いてしまうのだが。



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