香る纏う花の色 | ナノ

感情

ブックマンとの会話から数日かけて、記憶を全部取り戻した。しかし私が怖がるようなことは一切起こらなかった。私は私を保ったままだ。

ただし、取り戻したといっても、その記憶をただの映像として記録したような感じだ。そこには、一切私の感情は入っていない。

ためしに、以前、泣き出してしまったほどのザクロを見たけれど、なんともなかった。このザクロは、私とラビが思いを通じあわせることに一役買ったもので、私にとっては、とてつもなく思い出深く、恋心を呼び覚ましそうなものであったはずなのに。記憶を取り戻していないときでさえ、このザクロという果物は、私に強い感情を引き起こしたのに。

記憶を取り戻すというのはこういうことを指すのだろうか。私には、よくわからない。

よくわからなくても、記憶を取り戻したのだから、リナにも、すべて打ち明けたアレンや心配をかけた皆に報告をするのが筋だろうと思って、一人一人まわった。報告すると、よかったね、と皆一様に喜んでくれた。これまでの感謝の気持ちを述べて、次々に報告をしていく。

「よかった。これで、ユリアはまた前に進めるね」

リナがそういってくれたときは、本当に、全部うまくいっているかのように錯覚した。

しかしやっぱり気になるのは、持っていたはずの感情のこと。いくら毎晩、記憶の夢を見ようと、私にはなんの感情も甦らなかった。あのときはこういう気持ちだったはずだとか、そういう推測はできるけど、やっぱり、他人事みたいに私の心は空虚だった。

この原因はすぐにわかった。イノセンスだ。

原因を解明のきっかけは、コムイさんに報告と相談をしたときのこと。

「んー、おかしいな、一度ヘブラスカにみてもらった方がいい」

と言われ、一緒にヘブラスカに聞きに行ってわかった。

「……イノセンス……が、まるで……協約を結んで……いる」

「協約?」

「ユリアを守ろう……と恋心を特に……封印されている」

事情を理解したコムイさんが説明してくれたのは、こうだった。

私が咎落ちを予知した全ての原因は、私の恋心にあった。ラビが教団を去るときについていきたい、そう思ったから私は咎落ちを予知した。だから最初、結界のイノセンスは、ラビのことや他の全ての記憶まで消した。でも、私の過去を知る心眼のイノセンスが強くなっていくにつれて、それが難しくなったから、私を守るという目的のために、二つのイノセンスが感情だけは取り戻さないようにしようという約束をしていたのだ。そうすれば、私はラビへの恋心を取り戻さず、ラビと共に教団を去るという選択肢は消える。

感情について、気になっていたことはわかった。
そして、これが本当に記憶を取り戻したと言えるのかどうかやっぱりわからなかった。

少なくとも、記憶が戻ったらラビから聞けるはずのラビの答えを、聞きに行こうとは思えなかった。


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