香る纏う花の色 | ナノ

ゆらぎ

カボチャ畑は遠目からも目立っていた。何しろ、人よりも遥かに大きいカボチャがあったのだ。驚きだ。
ファインダーの調べによると、イノセンスの力によってここまで大きくなったという。

「うっひゃー、まさかこんなのにお目にかかれるとはな」

ラビも感心している。

「それでは、お願いします」

といってファインダーがノコギリを差し出した。

「あ、もしかしてこれ、俺がやらないとダメな感じ?」

「最初は、何が起こるかわかりませんから……」

用意されたノコギリは一本のみ。ラビがひたすら切ることになるのだろう。

「うへえ」

ラビは舌を出し、先の苦労を想像してどよんとしている。

「これ、潰せないんさ?」

「切ったカボチャは、そのまま食料にしたいという所有者からの強い要望で……」

「あ、そう……」

ラビはさらに落ち込んだ。

「きついときは手伝うから、がんばって」

とりあえず、私は励ました。いつAKUMAが嗅ぎ付けてきてもおかしくないのだし、早く取りかかってもらう必要がある。

「……おう」

ラビは重たそうな手を持ち上げ、ノコギリでカボチャを切り出した。
その間、私は目のイノセンスで周囲をざっと見渡す。そういえば、リナから聞いたが、これはもともと心眼と私は呼んでいたらしい。過去も未来も、その人の気持ちも視覚で読み取れていたからだ。今は過去は全く見えず、未来も二時間くらい先しか見えないけれど、それでも結構役に立っている。物事の本質を見る力は以前より発達したらしい。

「一時間ごとに、見張りを交代しましょう」

今のところ、AKUMAの奇襲などの急な変化は予見できなかったが、念のためにファインダーに言った。

カボチャ畑には私たちだけしかいないが、少し先に見える家々からは時おり視線が感じられた。きらりと光ることもあったから、もしかしたら誰か望遠鏡をもっている人がいるのかもしれない。

「ちょっと休憩させて」

ラビは一時間かけてカボチャの5分の1くらいまで切り終わった。半分まで切ったら、ファインダーと協力して引っ張って一気に裂くという。

「はあ、なんでこの任務ユウじゃないんさ……」

畑からでて、草地に大の字に寝転がったラビがいった。

「確かに、神田さんだとすぱっと切れそう」

私もラビに同調する。隣に腰を下ろし、のんびり会話をする。
ファインダーがさらに私と反対のラビの隣にやって来た。

「神田様は現在、別の任務中だそうですよ」

教団と連絡を取ったときにそう聞いたのだろう。私は深くは追求しなかった。口調から、ラビは来れない神田さんの代わりとして派遣された気がしたからだ。

「ああ、そうなんさね」

ラビは気がついているようすである。ラビほどであれば、やっぱり気づく。

「そろそろ再開するかな」

「がんばれ、ラビ」

「おう」

起き上がったラビがそういってカボチャ切りに戻ろうとする。

その時私のイノセンスが発動した。

「伏せて!」

AKUMAの攻撃を見た私は、ファインダーに声をかけながら、立ち上がろうとしたラビに覆い被さり、イノセンスを切り替えて、右腕を突きだし、結界を上に張った。

光線のようなAKUMAの攻撃が降り注ぐ。右腕の衝撃に唇を噛み締めて、耐えた。とりあえず収まるまで耐える。

「大丈夫さ」

といってラビが私の右腕を支えた。ずっと上を見続けていたが、ラビに視線を戻すと、ラビは私に力強く笑う。
頷いて、そのまま耐え続けた。

砂塵が巻き上がり、視界が少し悪くなったとき、攻撃の手が緩んだ。

急いで周囲に視線を巡らす。カボチャ畑も被害を受けていて、あの大きなカボチャもこなごなだ。かすかにイノセンスの光が見えた。

「イノセンスが見えてる。私、ファインダーと一緒にイノセンスを回収してくる」

「ああ、俺はAKUMAを」

「レベル2は全部で4体、レベル1が10体」

「楽勝さ」

全員が立ち上がって、準備をしてから、それぞれ同じタイミングで行動を始めた。
私とファインダーはAKUMAの攻撃を防御しながらイノセンスを回収。ラビが応戦しているお陰で、AKUMAが近づくことはできずに回収は完了した。

ラビの方は、レベル2に少し苦戦を強いられていた。レベル1はレベル2に仕掛けた攻撃を利用して全て破壊し終わっていたが、レベル2に連携をとられてしまいなかなか破壊できずにいる。

私はなんとか加勢したくて、なにかできないか考えた。

ちらりとファインダーのほうをみる。怪我もなく、頑健な体つきをしている。ある程度は離れて危険な目に遭っても、助けにいくまでは持ちこたえてくれそうだ。

「少し、離れます。危険なときは、助けを呼んでください」

ファインダーがうなずくのを見て、私はイノセンスを託し、ラビのもとへ駆けた。
ラビが避けたAKUMAの流れ弾を防御しながら走った。

私がしなければならないのは、二体のAKUMAのうち一体の動きを封じることだ。どちらも今はラビを緩く囲むような位置にいる。私はそこに割って入らなければならない。

タイミングを見計らって、飛び込んだ。一体のAKUMAの前の立ちふさがった。正面に大きく結界をはる。

「ユリア!!」

気づいたラビが叫ぶように私の名前を呼んだ。私は答えず目の前に集中した。目の前のAKUMAは、体当たりをしたり、遠回りをして結界を避けようとしている。私は一生懸命食らいついて行かなければならず、右に左にと走り回った。

ラビはすぐに私がAKUMAの動きを封じていることに気づいて、一体を片付け始めた。

目の前のAKUMAは、ラビを狙おうとしていたが、方針を変えて結界の排除を考え始めた。集中して放火を浴びせてくる。

結界に当たるたび、体は衝撃を受け続ける。私のイノセンスは攻撃を受け止めるが衝撃は適合者が引き受けなければならない。イノセンスのシンクロ率によって、衝撃は軽減される。私のシンクロ率は、67パーセント。最初の43パーセントから比べれば、ずいぶん衝撃を軽減できるようになった。それでも、腕を伝って体全体にずしんと突き通る衝撃は、精神力も体力も削っていく。衝撃が強すぎれば、吹き飛ばされることもある。

こうして盾になりつづけるのは初めてだ。自分の腕がどれほど耐えられるか、加減がわからない。すでに衝撃を一番受けとる手首は悲鳴をあげている。

なんとかラビのほうを振り替えると、AKUMAを圧倒していた。あと一息というところだ。私はラビを信じて、もう少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。

頭が揺さぶられる頭痛は、意識を朦朧とさせる。気を抜くと意識を手放してしまいそうだったが、手首の痛みが意識を引き戻す。

あと少し、あと少しと念じ続けた。

そのとき、ようやくラビがこちらへ手を回した。結界への砲撃に躍起になって、周囲が見えていなかったAKUMAは横からのラビの火判を受け、まず遠くに押し流された。大幅なダメージを受けたAKUMAは、それでも反撃をしたが、次々とラビの火判を受けて、ボロボロになっていった。そしてそのまま、為す術なく破壊された。

「ごめん、手間取った」

ラビが駆け寄ってくる。
私はまっすぐたっていられず、ふらふらとしていた。ラビが気づいて、肩を貸してくれる。

「大丈夫さ?」

意識は朦朧としなくなったが、その分、頭痛と手首の痛みが酷くなった。私は力なく笑った。
怪我はないけれど、だからといって心配をさせないほど大丈夫と言える状態ではなかった。

「イノセンスも回収したしそのまま帰還しよう。ここの処理はファインダーにまかせるさ」

私はうなずき、ラビにしたがった。ラビは私のようすを確認するために顔を覗きこんだ。

そのとき、不思議なことが起こった。

目の前が一瞬ぼやけたかと思うと、目の前に光景が現れた。中心に見えるのはラビには変わりなかったが、背景は木造の天井だ。ラビは私の額にふれて、心配な顔をしている。

ラビが話してくれた私の過去と、一致する光景だ。
これは私の故郷で、ラビが風邪を引いた私の側にいてくれたときのことだ。推測だけじゃなくて、私の直感もそう告げていた。

映像は突然終わりを迎えて、ラビだけがまた変わらず、背景がもとに戻った。

「ユリア?」

心配そうに見つめるラビ。

「行こう」

私はあわててラビを安心させようとちょっとだけ微笑んだ。私が微笑むことができるほどは大丈夫だとわかったラビは、歩き出した。

はっきりと記憶の断片が現れ出した。このことに私はひどくうろたえていたけど、なんとか隠そうと必死だった。


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