香る纏う花の色 | ナノ

過去の欠片

アレンの話で、ラビのことを気にかけていた私は、何を結局言えばいいのかわからなくて、ただただ時間を浪費していた。
せっかく、今ラビと仲間として仲がいいのにわざわざ壊しにかかるのが怖かった。

そして私は、リナとの任務を迎えている。ラビの話を聞いてから、おそらく二週間は経った。アレンがラビの恋煩いの相手が私だと知らないのをいいことに、沈黙を続けているのだ。

「ユリア、列車まで時間あるし、少し町を見ない?」

任務後、全ての気力を使い果たして、泥のように列車の個室で寝転がる私をリナが誘った。

「・・・鬼?」

つい呟いてしまった言葉にリナがにこりと笑う。

「え?」

ぞくりと寒気がして、私は思わず起き上がり姿勢を正して座った。リナの笑みが私の中で危険信号に変わって、背筋へと電流を送った。

「なんでもない、行こうか。」

いつも任務後にどこかへ行きたいとは思うけど、疲れ果てているせいで、休みたいという欲求が強くてやめていたから、たまには無理していくのもいいだろうと思って、リナの誘いをありがたく受け入れることにした。少しリナが怖かったというのもあるけど。

「今日は、町にとって特別な日なんだって。」

リナが嬉しそうに言う。特別な日だから、リナはどうしても来たかったのだと私は察した。リナは私が記憶を無くしてからずっと、何かしら思い出を一緒に作ってくれる。この数ヶ月、私の思い出にはリナがいっぱいいる。教団で数少ない女性の中でも、一番歳が近いリナとの思い出は、親友との思い出のようであって、姉との思い出のようでもあった。

私たちは最初町の民芸品を見て回った。
何を買うわけでもない。見て、手にとって、笑いあうだけだ。それがただ楽しくて穏やかであった。

「来てよかった。」

呟くとリナがこちらを見て嬉しそうに笑い、

「誘ってよかった。」

と返す。二人で笑い合いながら、まるで人生最高の日のように嬉しさを共有し合った。

「ねえ、少しお腹空かない?」

「うん、なんか少しだけ食べたいかな。」

笑いあった後、お腹が空いたことを自覚した私たちは何か軽食を探すことにした。

「リナみて、あの食べ物。」

民芸品を打っている店が立ち並ぶ通りを抜けて、食べ物が立ち並ぶ通りへと踏み入った私たちは通りの両側に並ぶ店を交互に見渡す。
私の目についたのは、果物を並べている店であった。

「なに?」

「あの果物、珍しいんじゃないかな。」

私たちはその店へと寄った。

「この果物、なんていうんですか?」

私は果物を売る女性に声をかけた。彼女は微笑みを常に顔に浮かべ、説明をする。

「ザクロです。甘酸っぱくて美味しいですよ。トルコが原産ですけど、この町でも栽培してるんです。」

「へえ・・・」

「少し食べてみます?」

彼女に差し出されたザクロの粒は、赤くてルビーのようだった。以前に神田さんと向かった任務地での、赤い宝石を思い出す。
私はその小さな粒を口に入れた。噛むと甘酸っぱい味が広がって、とてもおいしい。

「おいしい。」

そう呟いたそのとき、何かが心の中で吹き出した。とてつもなく強い感情が、火山のように吹き出して、息をするたび言葉にできない感覚が私を襲う。目頭や額の当たりが急にぼんやり熱くなって、涙がでた。

「本当。すごくおいしい。・・・ユリア?」

あとからザクロを試したリナが私の様子を見て驚いた。私はぼろぼろとザクロの粒ほどの涙を頬の上に転がし始めた。

「どうしたの?」

「わかんない。わかんない・・・このザクロ、本当においしいよ。おいしいの。なんでか涙がでて・・・」

店の女性は戸惑っていた。美味しいと言っているのに私が泣いている理由がわからないからだろう。私にもわからない。

「ごめんなさい。」

私は泣きながら、店から立ち去る。
まっすぐ駅へと向かった。泣いている私をみんなが振り返って訝しげに見る。涙を止めたいけれど、コントロールなどできなくて涙は依然止まってくれない。

「大丈夫?」

「大丈夫。なんだけど、どうしても涙がとまらないの。それになんだか悲しくなってきた・・・」

リナから借りたハンカチで涙をぬぐいながら私はリナの声にこたえる。

「きっと、私前にザクロを食べたことがあるんだと思う。すごく悲しい思い出だったのかもしれない。」

リナは私の腰に手を回し、体をくっつけて私をなだめるために彼女の体の温かさを共有させた。

「私、どうすればいいの?」

知らない悲しみが心を埋め尽くしていくことに戸惑って、リナの肩に頭をもたれかからせながら私は小さく嘆いた。リナはそんな私の頭の上に彼女の頭を乗せてつぶやくように私に言い聞かせた。

「何もしなくていいよ。気負わないで。今はただ、少し落ち着いて、それから考えましょう。」

私はその言葉ですうっと自分の涙が引いていくのを感じた。私は最後の一滴を目から出して、それからうなずいた。


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