香る纏う花の色 | ナノ

でたがる心

ジェリーさんが新しいお菓子を考案したというので早速試食しに食堂へ行った。もちろん寄生型のエクソシストのアレンも試食を楽しみに来ていた。

「美味しい・・・!」

お菓子を予約しておいたおかげで待たずに済んだ私は、大量にあるにも関わらずアレンに分けることをせず、彼の悔しそうな表情をなんとか無視してお菓子を一口食べた。
パウンドケーキの上に、オレンジのほのかな味のするアイシングシュガーがのったシンプルなケーキ。でもしっとりとしたパウンドケーキとアイシングシュガーがとてもよく合う。目の前にたくさんあるけれど、私は一口ずつ味わって食べた。至福のときである。

私が半分ケーキを食べきるころにアレンが大皿を持って、私の斜め前へと座った。少し離れたところだ。もちろんその理由は私たちが仲が悪いからではなくて、大皿の大きさのせいである。

「幸せそうに食べますねえ。」

最終的には同じケーキをゲットしたわけだが、分けてもらえなかったことがよほど悔しかったのか、アレンが皮肉的な声音で私の食べっぷりを評価した。

「だって、今すごく幸せだから。」

口の中のケーキをしっかり飲み込んでから私は返事をする。皮肉は無視だ。

「そうですか。僕も今、すっごく幸せですよ。待った甲斐がありました。」

「次からはちゃんと予約をしておいたらいいんじゃない?」

「うっ、そうですね・・・」

二回目のアレンの皮肉にさらっと返事をして、私はまたケーキを食べるのを再開させた。アレンは負けを認めて、自分もとケーキ集中し始めた。

「そういえば幸せで思い出したんですけど、」

一旦は流れた会話を掘り返してアレンがこちらに話しかけてきた。私は顔を上げて、現在味わっているケーキを飲み込み、アレンの方の話へと集中する。

「ラビって、いつも幸せじゃないんですかね?」

「どういうこと?」

「なんというか、いつも寂しそうっていうか、物悲しげというか。」

「そうかな。」

ラビのそんな表情をなかなか見たことがなくて私は首を傾げた。へらへらと笑ったりすることが多いけど、ラビは誠実だし明るい。悲しげ、というより苦しげな表情を見たのは、数ヶ月前の話だ。

「いつもにこにこしてるんですけどね。でもこの間一緒に列車に乗っていて、幸せそうなカップルを見てた時は、本当に悲しそうでした。恋煩いみたいなんです。」

恋煩い。自惚れかもしれないが私のことだと思った。もしかしたらラビは、私の前では無理をしているのかもしれない。本当に笑っているように見えていたのに。

「どうして恋煩いってわかったの?」

「悲しそうな表情をしている理由を聞いたら、ラビが、『一緒になることはできないけど、どうしても守りたい子がいる』って言ってました。」

「なんだか、とても哀しくて深い愛。いっそ忘れちゃえばいいのに。」

自分のことかもしれないとわかっていながら私はラビが私を忘れて仕舞えばいいのにといった。アレンはそんな私の発言に頷いた。

「そうですね。一緒になれないのに好きでい続けるのは辛いと思います。だからあんなに悲しそうだったんだろうな。」

ちくりと罪悪感で胸が痛んだ。ラビの気持ちを無視し続けている私。きっぱりと私のことは忘れてと伝えた方がいいのかもしれない。私の前で笑うけど他では悲しそうだなんて放っておけない。私のせいだろうとわかっているならなおさら。

「以前、師匠が本気になった女性がいたらしいんです。」

アレンは憂いを帯びた表情で、遠くを見つめ、自分の師匠の話をしだした。

「師匠はエクソシストですしその女性の方は事情があって師匠についていけなくて。アジア系の方だったんですけど、師匠、アジアの女性を見るといつも少し寂しそうでした。」

「じゃあアレンの師匠は、ずっとその女の人を思っているの?」

「師匠は愛人が絶えない人ですけど、心のどこかしらにはいつもその女性がいるんだと思います。」

アレンの師匠の話は、私を物哀しくさせた。心の中のどこかに誰かを抱えながら、でも目の前の人も愛しているアレンの師匠。きっと時折思い描くのだろう、愛した女性と一緒になる未来を。そして現実との差に悲しくなる。

私はラビがどうか早くいい人を見つけてくれるようにと願った。そうすれば、私が抱える罪悪感もなくなるだろうと。
でも、何かが引っかかっていた。心の中に、閉じ込められた感情があってそれが外に出たがっているような、そんな気がした。


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