香る纏う花の色 | ナノ

改進

私は至近距離でラビさんの瞳をのぞき込み、そしてその奥にある苦悩と激情を感じ取った。

「ユリアが記憶を失っても、戻るんじゃないかって、ずっと期待してた。それがユリアの負担になってるってわかってたんさ。でも辞めることができなくて、そのくせユリアを傷つけてるのが後ろめたくて、全然目が合わせられなかったんさ。」

ラビさんは、私に縋るように言った。

「ユリアの言う意味も分かる。前とは、違うんだってわかるんさ。でも、ユリアはユリアじゃないんさ?・・・俺、前も今も変わらないユリアの本質みたいなところが、どうしても好きなんさ。確かに性格は、変わった。前のユリアのほうが明かるかった。でも、俺が本当に望んでるのは、それじゃなくて。俺のことを見抜いて、本当に向き合おうとしてくれてるとこなんさ。表面はつくろってる俺を、ユリアはイノセンスなしでも見抜ける。俺、ユリアが毎朝イノセンスを使ってるのはわかってた。でも、それはあくまで最終確認だったろ?俺は、毎朝、いつユリアに見抜いてもらえるか緊張しながら待ってた。それで、一度も見逃すことなく俺のこと見抜いてくれるユリアに、ずっと安堵してた。ユリアは変わらないところがある。だから期待もしちゃったんさ。このまま、記憶も戻るんじゃないかって。」

じわりと、涙がにじんでいくラビさんの瞳は、以前目が合った時より澄んでいる気がした。ラビさんは自分の瞳を隠そうとして、私の腕から手を放し、そっぽを向く。
私はとっさにラビさんの腕をつかんでそれを引き止める。目を見開くラビさんの瞳とかち合った。

「隠さないで。」

今度は私がラビさんに縋る番だった。

「ようやく、ラビさんのことが分かったのに。また目をそらされたら、わからなくなっちゃう。」

ラビさんの瞳から、一滴だけ、涙が落ちた。その涙は濁りなど一切なくて、私はそういうのが欲しかったのだと気が付く。

「ごめんなさい。私、ラビさんのことを誤解してました。」

私の素直な謝罪に、ラビさんは首を振った。

「俺、ユリアの記憶が戻ること期待しすぎて、苦しめてごめん。」

「その、記憶のことなんですけど・・・」

私はラビさんの腕をつかんでいた手を離し、居住まいを正す。

「あんまり、期待しないでください。戻る可能性が、少し出てきただけなので・・・」

「・・・うん。また、ユリアとはいちから仲良くするさ。」

「私も、ラビさんとちゃんと仲間になりたいです。」

ラビさんは、にっこりと笑った。ちょっともの悲しげな笑顔だった。

過去を、知りたいとは思わない。しかし、こんな風な笑顔にさせるのが私との過去のせいだと思うと、その過去をきちんと受け止めた方がいいのだろうかと、気を遣いたくなった。


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