香る纏う花の色 | ナノ

表裏

かさり、かさり、と紙をめくる音が何度も聞こえてくる。俺は自然と眉間にしわを寄せてユリアを睨んでいた。

「おい。」

声を低くしユリアを呼ぶと、体をこわばらせたユリアがこちらを向き、恐る恐る用を聞いた。

「なんですか・・・?」

「何度資料を読めば気が済むんだ。」

俺が顎で薄い資料の束を指しながら言うと、ユリアは「ああ、」と資料に目をやる。

「まだ、任務は慣れてないから準備は万全にしようと思って。」

優等生のような回答が、出発直前の気持ちの悪い笑顔を思い起こさせる。
俺は舌打ちをした。

「・・・なにか、気に障りますか。」

資料を閉じ、居住まいを正してからユリアは言った。

「・・・・別に。」

人の顔色をうかがう気配を見せるユリアが、以前とは大違いであることが気に喰わなくて、あえて言わなかった。しかしユリアはそれを感じ取ったのだろう。俺の視界に入るとわずかに目を怒らせて、こちらを見つめてきた。

「ちゃんといってください。」

先ほどまでは控えめだった態度ががらりと変わった。静かだが有無を言わせぬ口調のせいで自分になにか圧力がかかった感覚を覚える。俺は一瞬まぶたを持ち上げたが、すぐに取り繕うように視線をそらせた。

「・・・猫をかぶるのをやめろ。」

ユリアを視界から追い払ってから、俺は言った。

「・・・?」

ユリアは首をかしげる。俺はさらに続けた。

「優等生みたいに資料を何度も読み返したり、人の顔色うかがって笑ったり、全部、気持ち悪いんだよ。ばかばかしい。」

ばかばかしい、と言ったところでユリアが気がついたように目を見開いた。しかしそれは一瞬で、彼女の瞳はすぐに細まった。

「・・・そうですか。」

ユリアの声色に俺は驚いた。あまりにも無機質な声だった。
怒ってもいいはずの俺の言葉に、ユリアは怒りもせず、ただただ心を押し殺した無の感情だけをあらわにしている。
俺はそれにも苛立って、

「・・・言い返せよ。」

と、口をうっかり滑らせた。止めようと思ったが、一度滑り出すと止まらなくなっていた。

「そういうのが、気持ち悪いっつってんだ。自分の感情押し殺して、人形みてぇに笑ったり、無感情になろうとしたり・・・見てて苛々する。」

言いながら、やめた方がいいと自分自身が歯止めをかける声が聞こえたが、途中で辞めることもできず、最後まで言い切った。言いたいことを言ったはずだったのに、すっきりするどころか、余計どんよりした何かが腹の底に溜まっていた。
ユリアは、無言で、やはりなにも言うことはなかった。
猫を被るのをやめろとは言ったものの、すぐに変わることを期待してはいなかった。ただ、自分のいらいらを吐き出しただけだったのかもしれない。
しかし俺は、このことではっきりと自覚した。
あの馬鹿兎が望むことと同じことを、少なからず、俺も望んでいる。


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